201311



[TOP]  [検索


事例担当者のイニシャル[HELP]N.S.
事例研究のタイトル[HELP]高等部2年生の自閉症児が用事を頼まれたときに、「はい、わかりました。」と言うことができるための支援
事例の概要[HELP]本生徒は教員から用事を頼まれたときに、指示に対しては従うことができることが多いが、「はい」と返事ができずに「え〜」「ああ・・・」「ん〜」などと返事をしたり、「今これをしてるんで・・・」「後でします。」などと言ってすぐに従うことが難しかったりすることがよくみられる。
適切な返事ができなかったときに、教員から注意を受けるだけでその場が終わってしまっていることもあるため、本人がどういうことばを言えばいいのかがわからなくなっていることも考えられる。
今年度6月に行われた現場実習においても、会社の人に対して「え〜」「ああ」などの返事をしてしまうことがあった。
卒業後、就職をめざしている本生徒にとって、用事を頼まれたときに「はい、わかりました。」と言言えるスキルを獲得しておくことは必要であると考え、この事例に取り組んだ。
対象児のプロフィール[HELP]特別支援学校高等部2年 男子 自閉症
S-M社会生活能力検査:10歳1ヶ月(平成25年12月)
指導者の役割と人数[HELP]担任1名
長期目標[HELP]用事を頼まれたときに、相手の方を向いて、「はい、わかりました。」と言うことができる。
短期目標[HELP]学校で教員から用事を頼まれたときに、「はい、わかりました。」と言うことができる。
標的行動(増やしたい行動)[HELP]学校で担任(1名)から用事を頼まれたときに、「はい、わかりました。」と言うことができる。
標的行動(減らしたい行動)[HELP]学校で担任(1名)から用事を頼まれたときに、「え〜」「ああ・・・」「ん〜」などと言う。
標的行動を取り上げる意義[HELP]本生徒は高等部2年生であり、卒業後は就職を目指している生徒である。働く上で、何か用事を頼まれたときに、(本生徒が内容がわかっている指示に対しては)「はい、わかりました。」と返事ができることはとても大切なスキルであると思われる。今、学校や現場実習先においてこのスキルを身につけ、場所や人への般化を少しずつでも増やしていくことは、将来の就職に向けて大変意義があるものと考えている。
問題の推定原因[HELP](1)用事を頼まれたときの適切な返事がわからない。
(2)「はい、わかりました。」と言うことで自分にとって得になることが起こらない。
想定される解決策[HELP](1)用事(本生徒が内容をわかっている用事)を頼まれたとき、どういうふうな返事が適切であるかについて、朝のSHRで「職場のコミュニケーション練習」として、写真カードを使って「はい、わかりました。」の練習を毎日行う。
(2-1)用事を頼まれたとき、「はい、わかりました。」と言うことが、働く上において大切なスキルであることについて、教員と話をして確認できるようにする。就職したいという気持ちがある本生徒にとって、必要なスキルであることを伝える。
(2-2)帰りのSHR後の振り返りで、用事を頼まれたとき、「はい、わかりました。」と言えた割合を自分でグラフに記入することで、どのくらいスキルを獲得できているかを自分で確認できるようにする。
選択した原因と解決策[HELP](1)
(2-1)
(2-2)
般化を狙う場面[HELP]学校で指導者以外の教員から用事を頼まれたとき。
現場実習先。
将来の就職先。
指導場面[HELP]休み時間。授業中(作業、販売実習)。
指導手続き[HELP]【ベースライン】
休み時間や授業中に、「〜してもらえますか?」「〜してください。」など本生徒に用事を頼む。


【指導1】
(指導1の指導開始1日目は、「職場のコミュニケーション練習」の意義について、クラス全員に話をしたり、練習の方法について説明したりする。)

(1)朝のSHRで「職場のコミュニケーション練習」を行う。
(日直がカードを見ながら「〜してもらえますか?」など用事を頼み、それに対して「はい、わかりました。」と言う練習を一人ずつ行う。)
(2)休み時間や授業中に、本生徒に用事を頼む。(1日に4〜10回程度。正反応・誤反応について直後はフィードバックしない。)
(3)帰りのSHR後の振り返りで、グラフの用紙を本生徒に手渡す。「はい、わかりました。」と言えた回数を伝え、割合を計算してからグラフに記入するようにことばかけで促す。割合が高いときは賞賛する。割合が低いときは、なぜできなかったのか対象生徒の話を聞いたり、「はい、わかりました。」と言えることの大切さについて説明したりする。


【指導2】
(指導2の開始1日目は、「職場のコミュニケーション練習」の内容が変更になったことと、その意義についてクラス全員に話をしたり、練習の方法について説明したりする。)

(1)朝のSHRで「職場のコミュニケーション練習」を行う。
(教員に名前を呼ばれた生徒は、教員の前に行く。教員から「〜してもらえますか?」などことばのみでの指示に対して、「はい、わかりました。」と言う練習を一人ずつ行う。)
(2)休み時間や授業中に、本生徒に用事を頼む。(1日に2〜3回程度。正反応ときは、ことばで時々賞賛する。誤反応のときは直後はフィードバックしない。)
(3)は指導1の手続きと同様。
利用可能な好子[HELP]スキルの獲得率が視覚的にわかりやすいグラフ
教材教具など[HELP]「職場のコミュニケーション練習」(「〜してくれますか?」という用事を写真と文字で示したカード)
振り返り用のグラフ
記録の取り方[HELP]どのような用事を頼んだのかということと、それに対して本生徒がどのように答えたかについて、次のように記録する。
「はい、わかりました。」と言えたとき・・・・・・○
「はい」のみ言えたとき・・・・・・・・・・・・・△
上記以外の返事(「え〜」「ああ・・・」など)・・×
指導期間と達成基準[HELP]【指導期間】
平成25年10月22日〜12月19日

【達成基準】用事(本生徒が内容をわかっている用事)を頼まれたときに、「はい、わかりました。」と言うことができた割合が100%の日が5日続いた場合、達成とする。
結果[HELP]ベースラインでは、用事を頼まれたとき、指示には従うことができても、「え〜」「ああ・・・」などと返事をしたり、無言であったりする場面がほとんどであった。「はい、わかりました。」と言う返事ができたことはなかった。
指導1では、指導開始2日目から2日連続で100%が続いたが、それ以後は「はい」のみの返事のときが多くなり、なかなか達成することができなかった。
指導2では、朝のSHRで行う「職場のコミュニケーション練習」の内容を新しくし、指導場面を1日のうち2〜3回に変更した。指導2に変更してから正反応率が徐々に伸び、8日目に目標達成した。
考察[HELP]指導1ではベースラインでみられた「え〜」「ああ・・・」などの返事はほとんどみられなくなり、「はい。」や「はい、わかりました。」のどちらかの返事ができるようになった。毎朝行った「職場のコミュニケーション練習」での視覚的な教材による指導によって、自分がどういう返事をするべきなのかがわかりやすくなったのではないかと思われる。また、帰りの振り返りのときに、自分でグラフに書くことで、結果が数値化されたことも本生徒にとっては意欲づけにつながったのではないかと思われる。
しかし、指導が進むにつれて、「はい、わかりました。」と正確に言うのではなく、「はい。」のみの返事で終わってしまうことが多くみられるようになってきた。用事を頼むと、「はい。」と少しイライラしながら言うこともあった。本来、あまり用事を頼まれることが好きではない本生徒に対しては、1日のうちに4回以上用事を頼むことは目標が高すぎたのではないかと思い、指導手続きを見直すことにした。
そこで、指導2として、指導場面を1日のうちに2〜3回に変更し、さらに用事の種類も限定して実施した。2〜3回の用事で、種類の限定された用事であれば、本生徒にとってもわかりやすかったようで、イライラすることなく取り組むことができたようであった。「はい、わかりました。」と正確に言う割合が多くなり、目標も短期間で達成することができた。グラフが確実に伸びていくことで、自信を持って意欲的に取り組むような姿もみられるようになった。
指導を通して、生徒の実態を把握して、目標や指導手続きを考えることの大切さを実感した。卒業後に就職を目指す生徒はトップダウンの視点から生徒の実態とはかけ離れた目標を設定してしまいがちであるが、生徒の実態に応じてスモールステップで着実に行動を獲得できるよう支援していくことが大切なのではないかと感じた。
参考にした先行研究や事例など[HELP]徳島県立阿南支援学校高等部 「特別支援教育に関する教育課程の編成等についての実践研究〜企業や福祉施設等の進路先の意見を踏まえた就労や地域生活に必要な能力の整理とそれを育成するための指導内容や指導方法に関する実践研究〜」(平成23・24年度)

指導前
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間
授業中
教員から「〜してもらえますか?」と用事を頼まれたとき
「え〜」「ああ・・・」「ん〜」などと言う 教員からの注意あり(↓)
言うべきことばがわからなくて不安(↓)

指導後
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間
授業中
教員から「〜してもらえますか?」と用事を頼まれたとき
事前に「職場のコミュニケーション練習」あり
「はい、わかりました。」と言う 教員からの注意なし(↑)
練習のとおりに言えた(↑)
練習した場面と同じ(↑)
事後の振り返りでグラフに記入(↑)

FILE 301_305_4.ppt
記入日時 2014/02/15/21:50:05

現行ログ/ [1]
++徳島ABA研究会++

++マニュアル++
TOP
shiromuku(h)DATA version 4.00