概 要 |
A君は高等部3年生の男子生徒で、ストレス(教員から注意を受ける、難しい課題を与えられる、注目が得られない、気持ちを言葉でうまく表現できないなど)を感じると人を叩くことがある。叩く相手は同じクラスのBさん(女子生徒)が主で、他にも同じクラスのC君や自分より弱そうな生徒を叩くときもある。中学部の頃から続いており、教員がいても叩くときはあるが、教員が近くにいないときに起こる頻度が高い。昨年度からA君に、「叩きそうになったらBさんから離れるように」と話し、指導してきた。A君自ら「手が出るけん離れる」と言い、距離をおくようになってきているが、できる回数は少ない。クラスやグループの雰囲気が悪くなり、活動が中断してしまうときがある。
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対象児のプロフィール |
A 高等部3年男子 知的障害
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諸検査結果 |
S−M社会生活能力検査 7歳8ヶ月(H16.8月実施)
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障害の特性 |
人との関係(人との関わりがうまくいかず、呼びすてにしたり叩いたりする。) 情緒反応(情緒が不安定なときにペットボトルに貼ってあるビニールを剥がして舐めたり人を叩いたりする。) 衝動性(思い立ったら今すべきことをおいたまますぐに行動して、やり遂げないと気が済まず、急に席を立ったり進行方向を変えて走り出したりする。)
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
1.Bさんを叩かず過ごすことができる(Bさんを叩きそうになったら離れる)。 2.C君を叩かず過ごすことができる(C君を叩きそうになったら離れる)。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
昼休み時間や動きのある学習活動時には、A君はBさんと接近する機会が多くなる。そのため、A君がBさんを叩く頻度が高い。教員が近くにいないときや近くにいても目を離すと叩くときもある。教員がA君とBさんの間に入ったり物理的に離さなければ、教員が近くにいるだけで防ぐことは難しい。 ベースライン:登校から下校までを15セグメントに分け、教員の介入なしで1セグメントにA君がBさんを1回でも叩いたら「1」とし、7日間記録する(1回以上でも「1」とする)。
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指導場面 |
登校から下校までの時間(Bさんに対して)
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指導手続 |
「たたきそうになったらはなれる」約束項目とシール表を作り、A君に予め説明する。登校後A君に、Bさんを叩きそうになったら離れるよう伝えておく。叩きそうになった場合、教員が「A君」または「離れる」と言葉がけをする。叩いてしまった場合、どうすれば良かったかを教員がA君に尋ね、望ましい行動(離れる)を確認する。叩かず活動できれば、下校前にシール(トークン)をシール表に1枚貼り、3枚たまればA君が好きな地図を渡す。1回叩いたらシールを1枚減らす。
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教材教具など |
約束項目とシール表、シール、地図(カラーコピー)
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達成基準 |
Bさんを叩いた回数が5日間のうち1回までになれば合格とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
指導場面 登校から下校までの間に、A君がBさんを叩いた回数を記録する。 達成基準に達した後で、般化場面に同じ記録をする。
グラフ下 第一系列のタイトル: 登校から下校までにA君がBさんを叩いたセグメント数 Baseline:ベースライン : ベースライン 第二系列のタイトル: 登校から下校までにA君がBさんを叩いた回数 Intervention1: 指導方法1
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結果 |
・介入後、0〜1回叩く程度になり、叩く回数が明らかに減少した。 ・行事前になると情緒が不安定になり、叩く回数が増えるときもあったが、多くても3回にとどまり、叩かずに過ごすことができるようになってきた。 ・「叩きそうになったら離れる」ことを繰り返し伝えたこと、トークンシステムを取り入れて下校前にシールを貼り3枚たまったらご褒美に地図を渡すことで、意識して離れることができるようになり、結果として自己コントロール能力が向上し、叩いた回数の減少につながった。
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考察 |
・トークンシステムを取り入れたが、シールを10枚ためたら地図がもらえるようにしていたため、なかなかシールがたまらず続かなかった。3枚ためたら地図がもらえるようにすると、A君は頑張ることができた。ためるシールの数を生徒に合わせて設定する必要がある。 ・「叩きそうになったら離れる」という約束意外にも簡単に達成できそうな約束を決め、最初は容易にシールや地図がもらえることを意識づけたことで、次は「叩かなかったらご褒美がもらえるから頑張ろう」という意識につながり、叩く回数の減少につながったと考えられる。 ・登校後、授業前、下校後に、指導者が「叩きそうになったら?」と尋ね、A君が「離れる」と答えて自分の行動を繰り返し確認したことが「離れる」行動につながったと考えられる。 ・行事前やその日の状況によって情緒が不安定になると思われるときには、少し離れた位置から行動を見守る必要がある。 ・指導者側の関わり方や言葉がけを工夫することも行動改善には必要な要素であった。 ・指導者や特定の教師の前では叩かず過ごすことができても、指導者と特定の教師が近くにいないときや他の教師の前では叩く傾向が見られた。人や状況によって態度を変える一面があり、誰が近くにいても、どのような状況であっても叩かず過ごせることが今後の課題である。 ・叩きそうになったら離れることで指導者から褒められ、認められたことが行動改善に少しはつながったと考えられるが、ストレス解消の根本的な解決にはならなかった。 ・トークンシステムをできればなくす方向で考えていたが、トークンシステムをなくすことはできなかった。
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A君がBさんを叩く行動(before)
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
ストレスがたまったとき |
Bさんを叩く |
ストレス解消 |
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A君がBさんを叩く行動(after)
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
ストレスがたまってBさんを叩きそうになったとき |
≪正反応≫Bさんから離れる ≪誤反応≫Bさんを叩く |
≪正反応≫ほめられる(↑) シール(3枚たまると地図)がもらえる <<誤反応≫シールが1枚減る(↓) |
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記入日時 2006/02/16/23:39:06
No.168
記入者 管理者
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