概 要 |
本児は沢山の言葉を獲得しているものの、言葉の音を楽しむ傾向にある。また、人との関わりの中で使用される言葉は限られており、パターン化されている。 要求場面においては、「○○するん?」と疑問形で表現したり、教室内では教師の手を引っ張って目的場所に連れて行こうとする。他の場所ではあまり見られない。 また対人関係の場面で、拒否したいことに対しては、言葉ではなく身体で反応すること(相手をつねる、叩く、両手で防御する、逃げる等)がほとんどである。 言葉を用いたコミュニケーションにより、本児の要求が叶えられ、そのことによって問題行動が減り、対人関係がより拡がるのではないかと考える。
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対象児のプロフィール |
Yさん 小学部3年生 女児。 精神発達遅滞。
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諸検査結果 |
新版K式発達検査(平成16年9月1日実施) 姿勢・運動…3歳 6ヶ月 認知・適応…1歳11ヶ月 言語・社会…2歳 7ヶ月 全領域………2歳 3ヶ月
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障害の特性 |
感覚遊びが多い。 多動傾向。 発語はあるが、言語面でも行動面でもパターン化傾向にある。 身体面では不器用 聴覚優位
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長期目標 |
要求を伝えたい相手と視線を合わせながら、ことばで要求することができる。
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短期目標 |
休み時間に、要求を伝えたい相手と視線を合わせて要求することができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
指導目標(1) ブランコを揺って欲しい時に、1M離れた正面にいる教師(担任)と視線をあわせて「ブランコ押してください」と要求することができる。
ブランコに乗るのが好きで、休み時間の度にブランコで遊ぶので、一番要求が出やすい場面であると考えた。 要求する相手を担任に絞ったのは、休み時間には確実に担任が一緒にいられるからである。
指導目標(2) ブランコを揺って欲しい時に、1M離れた右横にいる教師(担任)と視線をあわせて「ブランコ押してください」と要求することができる。
指導目標(3) ブランコを揺って欲しい時に、後ろにいる教師(担任) の方に振り返って視線をあわせ、「ブランコ押して下さい」と要求することができる。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
本児の要求手段は、ことば(正確ではない)をつぶやいたり、目線で訴えたり(場面は限定される)、教師の手を引っ張るなどがある。教室以外では自分で勝手に何も言わず行ってしまう。人見知りがある。
ベースラインの記録は1週間。プロンプトなしで教師と視線を合わせて要求できたかを記録する。 ・視線と言葉で要求…○(正反応) ・言葉のみの要求 …×(誤反応) ・視線のみで要求 …×(誤反応) ・視線合わず言葉での要求も無し(ブランコに座って体を揺らしている。コミュニケーションサンプルを分析した結果ブランコに座ることが本児の要求を表している。)…×(誤反応) 正反応の数と誤反応の数を記録しグラフに表す。
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般化場面 |
・担任以外の教師とも視線を合わせて要求することができる。 ・教師が後ろにいたり、少し離れていても視線を合わせる要求することができる。 ・教室で手の届かない物を取ってもらいたい時に教師と視線を合わせて要求することができる。
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指導手続 |
指導目標(1) 指導手続きは、教師は正面(本児との距離は1M)に立つ。視線が合えばブランコを揺らす。 プロンプトとして、視線が合わなければ教師がしゃがんで目線を合わせる。 「ブランコ押してください」を言わなければ「ブランコ…?」と聞く。
・視線と言葉で要求…○(正反応)→教師が「はい」といってすぐにブランコを押す。 ・言葉のみの要求…×(誤反応)→視線が合わなければ目線の高さを合わせるため教師がしゃがんで教師のほうから視線を合わせる。それでも合わない場合は教師の目を指さしして気付かせる。そして、視線が合った状態のままもう1度「ブランコ…?」と聞いて続きの言葉を引き出す。 ・視線のみで要求…×(誤反応)→教師が「何?」と聞く。それでも言葉の要求がなければすぐに「ブランコ…?」と教師が言う。 ・視線合わず言葉の要求もなし…×(誤反応)→ブランコを押さない。(本児はブランコを押してもらえないといったんブランコから離れ、しばらくしてからまたブランコに座って気付いてもらおうとするので指導場面は設定しやすい)
指導目標(2) 教師は右横(本児との距離は1M)に立つ。視線が合えばブランコを揺らす。 プロンプトとして、視線が合わなければ教師が本児の顔をのぞきこんで視線を合わせる。 以下指導目標(1)と同様。
指導目標(3) 教師は本児の真後ろに立つ。距離は1M離れる。本児が振り返って視線を合わせながらことばで要求したらブランコを押す。 プロンプトとして、視線が合わなければ教師が本児の体を後ろに振り向かせる身体的ガイダンスをする。 以下指導目標(1)、(2)と同様。
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達成基準 |
ブランコを揺って欲しい時、担任と視線を合わせて「ブランコ押してください」と要求することができた割合が3日間の平均80%以上で達成とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
\x{2460}プロンプトなしで担任と視線を合わせて「ブランコ押してください」と要求することができた時…○ \x{2461}プロンプトを必要とした時…×
グラフ下の文字列 第一系列のタイトル: 正反応 Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 Intervention2: 指導方法2 Intervention3: 指導方法3 第二系列のタイトル: 誤反応 Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 Intervention2: 指導方法2 Intervention3: 指導方法3
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指導期間 |
ベースライン 平成16年9月14日〜21日 指導目標(1)9月27日〜11月22日 指導目標(2)12月13日〜12月17日 指導目標(3)1月11日〜1月29日
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結果 |
指導目標(1) ・視線をあわせるようになるまでには困難を極めたが、言葉+視線で要求がかなうと分かると確実に視線が合うようになり、視線の合う時間が増えてきた。 指導目標(2) ・すぐに教師のいる位置を把握し、確実に視線をあわせて要求できた。 ・誤反応はほとんどなく3日間で達成基準をクリアできた。 ・要求の姿勢にバリエーションが見られた。 ・はきはきと大きな声で要求でき、しっかり視線があっていた。 指導目標(3) ・顔を横に向け、視線をあわせてきたが、視線があっているか正確に確認できないので、身体ごと後ろに振り返るよう身体的ガイダンスをした。するとすぐはきはきした声で要求できた。
<般化>人見知りのある本児だが、担任以外の教師にも視線をあわせて要求することができた。
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考察 |
・教師の立つ位置を変えても正反応がすぐあらわれたことから、標的行動は身に付いたと考えられる。 ・本児は寒さが苦手なので冬場になりブランコが好子として継続できなかったため、室内での要求場面を今後設定していく必要がある。 ・他の場面でも、教師がプロンプトを出すことで自分から視線を合わせることができており、「○○してください」と適切な言葉で要求できる場面が増えてきた。 ・視線を合わせて友だちと関わる場面もみられるようになり、コミュニケーションのひろがりが期待される。 ・拒否したい場面で、つねる、たたく等の問題行動が依然として続いている。新たな視点から行動を分析していくことが必要である。
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ブランコ
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
ブランコを押して欲しい時 |
「正反応」 パターン1:教師と視線を合わせて「ブランコ押して下さい」と言う。 「誤反応」 パターン2:教師に「ブランコ押して下さい」と言う。 パターン3:教師と視線を合わせる。 パターン4:ブランコに座って体を揺らしている。 |
「正反応」 パターン1:すぐにブランコを押してもらえる。 「誤反応」 パターン2〜4:すぐにブランコを押してもらえない。 |
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記入日時 2006/02/23/23:33:14
No.187
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