概 要 |
本児は、家庭や学校などの生活場面において、「噛む」「叩く」「つねる」「ひっかく」「物を投げる」「破る」「はさみで色々な物を切る」という行動問題がある。なかでも、「叩く」という行動は、人に対して生起している行動であり、クラスの児童に対しても「叩く」場面が見られるようになってきた。従って、今回は本児の「叩く」という行動に注目した。 本児の「叩く」という行動に対して、二つの機能に注目した。一つ目は行動を制止された時に起こる「物や活動要求」である。二つ目が特にやることがなく、何をしたら良いか分からない時に起こる注目の機能である。一つ目の行動とは、ご飯につばを入れこねる等の容認しにくいものである。二つ目の「注目」の機能は、何か自分が集中して取り組めるものがある場合は起こらないと考えられる。従って、その行動に等価な代替行動を休み時間に取り入れ、本児が遊びに取り組むきっかけを作ることからはじめ、自発的に遊びに取り組めることを目標とする。
|
対象児のプロフィール |
B 小学部1年生 男児 自閉症
|
諸検査結果 |
新版K式発達検査(2005.8.31実施) 姿勢・運動 2歳3ヶ月 認知・適応 2歳9ヶ月 言語・社会 2歳5ヶ月 全領域 2歳6ヶ月
|
長期目標 |
自分で選択ボードの中から選択した遊びで休み時間を過ごすことができる。
|
短期目標 |
選択ボードの前にいる教員の呼びかけ(名前)により選択ボードの前に行き、教員の「どれにする」という声かけに対して、9枚の写真カードの中から自分のしたい遊びを選び、教員に伝えて遊ぶことができる。
|
指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
<指導目標> 選択ボードの前にいる教員の呼びかけ(名前)により選択ボードの前に行き、教員の「どれにする」という声かけに対して、9枚の写真カードの中から自分のしたい遊びを選び、教員に伝えて遊ぶことができる。
<選んだ理由> 本児は、家庭や学校などの生活場面において、「噛む」「叩く」「つねる」「ひっかく」「物を投げる」「破る」「はさみで色々な物を切る」という行動問題がある。学校では、「噛む」と「叩く」が顕著であった。MASの結果、「噛む」の機能としては、感覚:5、逃避:1、注目:0.5、物や活動要求:1であった。「叩く」の機能としては、感覚:2.5、逃避:4、注目:3.25、物や活動要求:5.25であった。なかでも、「叩く」という行動は、人に対して生起している行動であり、クラスの児童に対しても「叩く」場面が見られるようになってきた。従って、今回は本児の「叩く」という行動に注目した。
|
指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
本児の「叩く」という行動に対して、二つの機能に注目した。一つ目は行動を制止された時に起こる「物や活動要求」である。二つ目が特にやることがなく、何をしたら良いか分からない時に起こる注目の機能である。一つ目の行動とは、ご飯につばを入れこねる等の容認しにくいものである。二つ目の「注目」の機能は、何か自分が集中して取り組めるものがある場合は起こらないと考えられる。
|
指導場面 |
休み時間(1時間目終了後、2時間目終了後)
|
指導手続 |
<ベースライン> 遊びの選択カードは提示せず、対象児がどのような遊びや行動をするかを記録する。 <介入> \x{2460}遊びの選択ボードの前まで連れて行き、「どれにする」と指さしながらことばがけをする。 \x{2461}遊びの選択ボードの前で本児を呼び、「どれにする」と指さしながらことばがけをする。 \x{2462}遊びの選択ボードの前で本児を呼び、「どれにする」とことばがけをする。
|
教材教具など |
遊びの選択ボード 写真カード(9種類) プレイルーム・三輪車・ローリングカー・おもちゃのバス・落書き帳と色ペン・砂場・粘土・ブロック・テレビ
|
達成基準 |
教員の「どれにする」ということばがけに対して、3日間連続で遊びの選択ボードから遊びを選択し、その遊びをすることができる。
|
記録の取り方(般化場面と指導場面) |
<ベースライン> 1時間目と2時間目の休み時間の問題行動(叩き)の生起頻度を記録する。 <介入> 1時間目と2時間目の休み時間の問題行動の生起頻度を記録する。遊びの選択ボードから遊びを選択し、その遊びに取り掛かることができたかどうかを正誤反応として記録する。3日間連続でできた場合は、次の手続きへと移行する。また、本児が選んだ遊びの種類も記録する。
|
結果 |
ベースラインでは、何か特定の遊びをするということもなく、教員への叩きが顕著にみられた。遊びの選択ボードを示すことにより、選択ボードから選んだ遊びをすることができた。また問題行動(叩き)の減少がみられた。問題行動が起こったのは、プレイルームでの遊びの時のみである。選択した遊びについてはその遊びをすることができ、誤反応はみられなかった。
|
考察 |
本研究では、本児の何もすることがなく、手持ち無沙汰な状態の時に起こる「注目」から生じる問題行動(叩く)に注目した。その手持ち無沙汰な状態の時に遊びを提示することにより、その行動(叩く)を減少させることの有効性が示唆された。 「叩き」全体の生起頻度も減少した。それは、「注目」以外の「物や活動要求」として起こっていた叩きの原因である、給食時にご飯につばを入れてこねる等の行動に対して、遊びの中で粘土や砂遊びから自分の好きな感覚・感触が得られることにより、その代替行動として成立したのではないかと考えられる。 しかし、プレイルームでは叩きがみられた。それは、プレイルームは学部の子ども達が共有して使うスペースであるという要因があげられる。このことから、プレイルームでの叩きにアプローチすることは困難であると考えられる。 また、選択ボードから遊びを選択することはできていたが、本児の意識が他のことに向いている時には、選択ボードの前で名前を呼んでも反応することが少なかった。それは、学習時間と休み時間の境目が明確でないからだと考えられる。今後は本児にとって学習時間と休み時間の境目(休み時間の始まり)を明確にすることが課題となる。
|
|
たたく
|
A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
何もすることがない時(選択ボードなし) |
たたく |
先生が注目してくれる(↑) 先生が遊びに誘ってくれる(↑) |
|
選択ボードから遊びを選択する
|
A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
何もすることがない時(選択ボードあり) |
選択ボードから遊びを選択する |
好きな遊びをして過ごすことができる(↑) |
|
第一系列のタイトル: 1時間目の休み時間の叩きの回数 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 介入1
Intervention2: 介入2
Intervention3: 介入3
|
第二系列のタイトル: 2時間目の休み時間の叩きの回数 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 介入1
Intervention2: 介入2
Intervention3: 介入3
|
|
記入日時 2005/10/14/16:58:20
No.55
記入者 B
E-Mail
|