概 要 |
本児は、生活の様々な場面で、遊び、トイレ、お茶、その他の要求行動を教師に対して示すことが多い。しかし、発語があるものの非常に不明瞭であったり、曖昧なジェスチャーや指さししかできないため、教師に要求が伝わらず、パニックになることも頻繁である。
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対象児のプロフィール |
氏名:N.T. 小1男子 自閉症
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諸検査結果 |
PEP-R:1歳11ヶ月 津守式発達検査:1歳8ヶ月 大田のステージ:\x{2162}-2
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障害の特性 |
情緒反応:叱られた時、緊張したときに笑う。すぐにかんしゃくを起こす。 変化への対応:遊びや活動の終わりの声かけを受け入れるのが苦手である。 コミュニケーション:言語理解は比較的良好だが、表出は不明瞭な単語やジェスチャーのため、自分の思いが伝わりにくく、フラストレーションがたまりやすい。
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指導者 |
H.I.(学級担任) M.M.(学級担任) O.M.(専科)
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長期目標 |
・日常生活の5〜6場面で(代替手段による)要求あるいは選択の意思表示をする。
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短期目標 |
・日常生活の2〜3場面で(代替手段による)要求あるいは選択の意思表示をする。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
・指導目標:給食時間に、「減らす」カードを教師に手渡して、嫌いな給食を減らすことを要求する。 ・選択の理由:コミュニケーションサンプルからは、話し言葉(形態)で、給食時(文脈)に、要求(機能)することが、もっとも頻繁に確認されている。しかし、対象児の話し言葉は不明瞭で、なれている人にも非常に聞き取りにくい。日常場面で、発語が周りの人に伝わらないためにパニックになることが見られる。代替手段の使用によって、確実に伝達できる、注意喚起が容易になる(カードの手渡しによって)などの効果が期待される。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
・一日の以下の場面でのコミュニケーションサンプルを採取した。(1.カバンの片づけ、2.トランジッション、3.おやつ、4.課題、5.遊び、6.給食) ・その結果、対象児のコミュニケーションは、次のように分析された。 ・好んで使用するコミュニケーションの形態:話し言葉(ただし発音不明瞭) ・好んで使用する文脈:給食 ・好んで使用する内容、機能:要求
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般化場面 |
1.遊びの時間に、遊びの内容を選択して要求する。 2.トイレに行きたいことを、カードを手渡して要求する。 3.お茶を飲みたいことを、カードを手渡して要求する。
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指導場面 |
給食時間に、「減らす」カードを教師に手渡して、嫌いな給食を減らすことを要求する。
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指導手続 |
嫌いな食べ物がある時 1.「減らす」カードを教師に手渡す。 *明らかに嫌いな食べ物があると思われる(不明瞭なことばによる要求やその他の問題行動が見られる)のに、カードを手渡すことができない時は、指導者が手を出して渡すことを促すか、プロンプターの教師が対象児の後ろから身体補助する。 *ことばのみで要求した時は、指導者が手を出して渡すことを促すか、プロンプターの教師が後ろから身体補助する。 2.どの食べ物を減らすか指さして教師に伝える。 →嫌いな食べ物をごく少量(一口で食べ終わる程度)に減らす。
※2005年1月に入って,好きなメニューのおかわりが欲しいという要求行動が見られるようになった。そのため,2005年1月19日より,「下さい」カードを「減らす」カードに加えて提示することにした。
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教材教具など |
「減らす」カード:残食を捨てる様子の写真をカードにしたもの。
※「下さい」カード:PCSの「下さい」のカード。
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達成基準 |
・達成回数(プロンプトなしで手渡す)÷試行回数=達成率が80%を超え、それが5日間連続した時、達成したと見なす。 ・20指導日を超えて、達成率が50%を超えない時、中止し、指導計画の見直しを行う。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
1試行ごとに、次の基準で記録を行う。 ・プロンプトなしにカードを手渡す:○ ・プロンプトあり:× ※指導者が手を差し出すことも、プロンプトありと見なす。
以下のように、一指導日の達成率を記録する。 プロンプト無しの総数÷一日の全試行数×100=その日の達成率
不明瞭だが了解可能な発語での要求(「エアウ(減らすの意)」「イアン(要らん)」等)について,生起回数をチェックし,一指導日の生起頻度を記録する。 生起回数÷一日の全試行数×100=了解可能な発語の生起頻度
了解不能な発声やその他の問題行動(パニック,立ち歩き,その他)について,生起回数をチェックし,一指導日の生起頻度を記録する。 生起回数÷一日の全試行数×100=不適応行動の生起頻度
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指導期間 |
2004年10月15日:コミュニケーションサンプルの採取 2004年11月17日〜2005年3月10日
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結果 |
・達成基準には達していないが,カードの手渡し行動がほぼ安定してみられるようになったので,事例研究を中止する。これ以降,指導期間と同様の指導手続きで,給食中のカードの使用を続ける。
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考察 |
・指導期間全体のうち,指導開始直後2週間と1月19日〜2月16日までの約1ヶ月間以外は,対象児は比較的高い達成率を維持している。このことから,対象児は,カードの手渡し行動をほぼ獲得したと考えられる。 ・1月19日から,「減らす」カードに加えて,「下さい」カードを用意した。その後1ヶ月ほど達成率が下がっている。 ・「下さい」カードは,既に別の場面で手渡し行動を学習している物を利用している。1月19日以降,本児は,このカードを用いておかわりを要求することが出来ている。 ・「下さい」カード導入後,1ヶ月間達成率が低下したのは,セッティングの変更によって,混乱したこと。本児がカードの意味(伝達する内容)を十分理解せず行動していたため,2種類のカードを使い分けられ無かったことなどが考えられる。 ・今後,様々な場面でカードの手渡し行動による要求コミュニケーションの指導を行い,手渡し行動だけでなく伝達する内容の理解を深める指導が必要になると考えられる。この意味では,PECSなどが妥当な指導法としてあげられる。 ・了解可能な発語の生起頻度については,指導期間中一貫した変化は見られない。 ・不適応行動の生起頻度については,多少のデータの揺れは見られるものの,漸減している。ゆえに,標的行動の達成が不適応行動の減少に効果があると考えられる。
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参考にした先行研究や事例など |
FILE 34_78_1.xls 対象児のコミュニケーションサンプル FILE 34_78_2.xls 指導記録
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コミュニケーションの代替手段なし
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
給食の時、嫌いな食べ物がある。 |
1.何もしない 2.不明瞭なことばでの要求 3.皿をひっくり返すなどの不適応行動 |
1.給食は減らされない。 2.伝わらず、給食は減らされない。 3.叱られる。 |
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コミュニケーションの代替手段あり
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
給食の時、嫌いな食べ物がある。 |
「減らす」カードを手渡す。 |
給食が減らされる。 |
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記入日時 2006/02/24/15:09:17
No.228
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