2005-04



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小学部低学年の自閉症児が携帯用写真カードによって遊びの要求を伝えるための支援
対象児のプロフィール
Dくん、小学部2年生、男児、自閉症

諸検査結果
PEPーR 2歳3ヶ月(2004年度8月)

障害の特性
視覚的な優位性が強い。
集中の持続時間が短い。
コミュニケーション面の問題(注意喚起としての機能を持つ問題行動が多くみられる)

指導者
学級担任2名

長期目標
自分の要求や意思を写真カードを使って伝えることができる。

短期目標
休み時間、次にしたい遊びを携帯用写真カードを指さして教師に要求することができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
同上

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
 本児は対人意識が高い児童であるが、学習の場面でするべき活動に対して意欲が持てない場合や、休み時間などに何もすることがない場合に、「教師の目を盗んで走って逃げる」「校外へ飛び出して走っていく」などの行動がよくみられる。
 MAS(2005年8月実施)の結果、「走って逃げる」「校外へ飛び出す」行動の機能としては、「感覚 4」「逃避 1.5」「注目 4.5」「物や活動 3」であった。 教師からの注目がそれた時に校外などへ走って逃げ、教師に追いかけてもらって喜ぶという姿がみられることが多く、「注目」の機能が最も高くなっている。本児にとってこの行動は、教師との関わりを楽しむ遊びの一つとなってしまっている部分がある。
 また、「感覚」の機能も高いが、これは、本児が「動きや触れ合う感覚が得られる活動」(例えば、ホーススイングで激しく揺ってもらう、滑り台を滑る、グルグル回してもらう、おんぶ、放り投げ遊び、くすぐり遊び、かたぐるまなど)が好きであり、「走る」ことによって動く感覚を得ているためと考えられる。(「JSIーR」によると、前庭感覚系と触覚系の感覚入力を必要としていることが分かった。)
 現在、本児は休み時間になると、遊びの選択ボードの写真カードによって好きな遊びを選択し指さしで教師に伝えているが、「わくわく広場」を選択することがほとんどである。しかし、「わくわく広場」に行っても遊具で少し遊ぶと飽きてしまい、次に遊びたいものがない場合に教師の目を盗んで追いかけてきてもらうために校外などへ走り出す行動に出ることがよくある。
 そこで、遊びに飽きた時に、携帯用の写真カードを使って、教師との関わりが得られる遊びや動く感覚・触れ合う感覚が得られる遊びなどを教師に要求するというスキルを身につけることで、走って逃げたり、校外へ飛び出すという問題行動を減らしていきたいと考えた。
 

般化場面
指導場面以外の休み時間、家庭での遊び場面

指導場面
朝の着替えが終わってから、朝の会が始まるまでの休み時間

指導手続
【指導方法1】
・教師からの注目が得られ、かつ動いたり触れ合ったりする感覚が得られる遊びを選択肢に入れる。また、関心のある友だち(Aくん、Bくん)との関わりも選択肢として入れる。
(「ホーススイング」「滑り台」「セラピーボール」「おんぶ」「グルグル遊び」「放り投げ遊び」「Aくん」「Bくん」の8種類)     
・休み時間に、携帯用写真カードを本児のズボンに吊る。
・最初は、教師が写真カードを一緒に見ながら、指さしや声かけのプロンプトを行い、選択ができるように働きかける。徐々に、自分から要求できるようにプロンプトをフェイドアウトしていく。

【指導方法2】
・般化場面として「4時間目終了時〜給食開始までの休み時間」における指導を行う。指導手続きとしては、8枚の写真カードの遊び以外の遊びをすることが出てきたので、指導方法2では、写真カードの種類を2枚(「ブランコ」「砂場」)増やす。それ以外の指導手続きは、指導方法1と同じである。

教材教具など
携帯用遊び選択カード

達成基準
 指導場面において、プロンプトなしで携帯用写真カードによって遊びの要求を伝えることが80%以上できた日が3日間連続したら達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
【ベースライン】
 指導場面において、校外などへ走り出そうとした回数を記録した。
 
【指導場面】
・正反応・・・自発的にカードを使って遊びを要求できた
・誤反応・・・カードを使って遊びを要求するのに、プロンプトが必要だった
・誤反応・・・校外などへ走り出そうとした

(№12のグラフの縦軸に、「正反応・誤反応の回数」を示した。また、№59のグラフの縦軸に、「走り出そうとした回数」を示した。)
 

指導期間
平成17年10月13日〜11月18日
(ベースラインは、平成17年10月4日〜10月7日)

結果
【指導方法1】
指導開始初日は、携帯用写真カードに興味は示したものの、自ら選択して伝えることがみられず、教員からの指さし・声かけのプロンプトが必要であった。2日目からは自分で選んで要求できることができることもあったが、走り出そうとした時や遊びに飽きてウロウロしている時などに教員がカードを指さしたり声かけしたりとプロンプトを行った。指導開始9日目からは正反応率が誤反応率を上回るようになり、21日目に達成した。

【指導方法2】
指導開始から5日間で達成した。

考察
【指導方法1】
指導開始前は、遊びの選択ボードから遊びを選択しても、別のところに走り出したり、遊びの途中でイライラしたりすることが多かった。突然校外などへ走り出すことも多く、指導前は教員が対象児の後を常に追っていた状況があった。しかし、指導を始めてから、自分で選択したカードのとおりの遊びができたり、一つの遊びにしばらくの時間取り組めるようになった。そのことによって、教員も対象児の後を追わなくても、安心して遊びの様子を見守ることができるようになった。校外などへの走り出しも、指導開始前は、一日平均2.25回あったのが、指導後は0.4回に減少した。また、指導前は、常に後ろを振り返っては教員の目を気にして走っていることが多かったが、指導後は教員にきちんと自分の意思を伝えてから次の遊びに移ることができるようになり、自分も安心して次の場所に行くことができるので、後ろを振り返って教員の目を気にすることがほとんどなくなった。自分の意思を的確に教員に伝える手段を持てたことによって、対象児の情緒が安定し、校外への飛び出し行動も減少したものと思われる。また、遊びカードの種類を「わくわく広場」などの場所ではなく、本児の好きな遊具や触れあい遊びという具体的な遊びに限定したことで本児にとって分かりやすい選択カードとなり、自主的に伝えることも増えたのではと思われる。課題としては、写真カードにない遊びをすることが増えてきて、その場合に伝える手段がないため走り出すことがあるので、カードの種類を増やして、別の指導場面で指導方法2として開始したいと考えている。

【指導方法2】
般化場面だったので、本児もカードの使い方をよく理解できていて、短期間で達成することができた。指導前は、給食前の休み時間にすることがなくて、校外などへ数回走り出すことがあったが、指導を開始してから、この場面での校外などへの走り出しは5日間連続で0回であった。また、カードの種類を増やしたことにより、好きなブランコを選択して20分程一人で遊べるようにもなった。指導開始前は、ブランコを選択することなどほとんどなかったが、携帯用カードにしたことによって、行きたい時にすぐ要求できるという利点があり、要求が増えたものと思われる。

参考にした先行研究や事例など
コラボレーションプロジェクト2004
9−2「遊びに飽きた時、次の遊び道具を要求できる」

走って逃げる、校外へ飛び出す
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間、遊びに飽きた時 走って逃げる
校外などへ飛び出す
動くことができる(↑)
教師からの注目・関わり(↑)

携帯用写真カードで遊びを要求する
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間、遊びに飽きた時
携帯用写真カードあり
教師に次にしたい遊びを写真カードを指さすことで要求する 動くことができる(↑)
教師からの注目・関わり(↑)


第一系列のタイトル: 正反応数
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導方法1   Intervention2: 指導方法2  
第二系列のタイトル: 誤反応数
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導方法1   Intervention2: 指導方法2  
記入日時 2005/09/07/17:51:16  No.12
記入者 S  E-Mail

小学部低学年の自閉症児が携帯用写真カードによって遊びの要求を伝えるための支援

第一系列のタイトル: 校外などへ走りだそうとした回数
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導方法1   Intervention2: 指導方法2  
第二系列のタイトル: 
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4  
記入日時 2005/10/20/16:46:47  No.59
記入者 S  E-Mail

小学部低学年の自閉症児が携帯用写真カードによって遊びの要求を伝えるための支援
短期目標
家庭において、好きな遊びを携帯用写真カードを使って選択し、家族に要求することができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
同上

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
保護者の話によると、本児は家庭において、「電器製品をドライバーなどを使って分解する」「洗剤をふりまく」「カーテンにぶら下がって遊ぶ」など、保護者がしてほしくないような不適切な遊びをすることがある。そのため、保護者はドライバーなどの工具や洗剤などを家の外に全部隠さなければならないなど、大変困っている状況である。本児がこのような不適切な遊びをしてしまう背景には、「興味のある遊び(動く感覚や触れ合う感覚が得られる遊び)を自分で選択したり、要求したりする明確な手段がない」ことが原因としてあるのではないかと考えた。そこで、家庭においても学校での指導同様、携帯用遊び選択カードを使って、自分のしたい遊びを選択・要求できるようになれば、不適切な遊びも減少するのではないかと考え、この指導目標を設定した。

指導場面
家庭における遊びの時間(保護者と相談して、一日のうち、30分程時間を設定する)

指導手続
・家族からの注目が得られ、かつ動いたり触れ合ったりする感覚が得られる遊びを選択肢に入れる。また、それ以外にも本児が家庭でよく行っている遊びを選択肢として入れる。
・設定した遊びの時間に、携帯用写真カードを本児のズボンに吊る。
・最初は、家族の誰かが写真カードを一緒に見ながら、指さしや声かけのプロンプトを行い、選択ができるように働きかける。徐々に、自分から要求できるようにプロンプトをフェイドアウトしていく。

教材教具など
携帯用遊び選択カード

達成基準
指導場面において、プロンプトなしで携帯用写真カードによって遊びの要求を伝えることが80%以上できた日が3日間連続したら達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
【ベースライン】
 指導場面において、どんな遊びを要求したかを記録する。

【指導場面】
・正反応・・・自発的にカードを使って遊びを要求できた
・誤反応・・・カードを使って遊びを要求するのに、プロンプトが必要だった

指導期間
平成18年1月16日〜1月26日

結果
指導開始1日目は少しプロンプトが必要であったが、2日目から自主的に要求でき、6日目には達成できた。

考察
学校でも使用していたので、携帯用写真カードの使い方をよく理解できていて、カードの内容は違っていても家庭ですぐに自分から要求でき、短期間で達成できた。ベースラインでは、家庭での遊びはほとんどゲームばかりで、不適切な遊びもしていた。しかし、指導を開始してからは、遊びは自転車や小学校の運動場など戸外ばかりを要求し、ゲームの要求は全くなかった。不適切な遊びもデータとしては取れていないが減少し、洗剤を振りまく遊びもしなくなったとのことである。保護者からは、「携帯用写真カードを使ってから本児が本当はどんな遊びがしたかったのかがよく分かった」「本当は外に行きたかったのに我慢していたんだと分かった」「引き続きカードを使っていきたい」などの感想をいただいた。このことから、やはり、不適切な遊びをしてしまっていた背景には、自分の要求を適切に伝える手段がなかったことが分かった。携帯用写真カードでの要求という手段を身につけたことで、家庭においても伝わる楽しさを実感できたことが成果であったと思う。


第一系列のタイトル: 正反応数
Baseline: ベースライン   Intervantion1: 指導方法1  
第二系列のタイトル: 誤反応数
Baseline: ベースライン   Intervantion1: 指導方法1  
記入日時 2005/11/30/21:28:31  No.71
記入者 S  E-Mail

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