200613



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低学年自閉症児が数種類のカードの中からしたい遊びを選び、教員にカードを手渡して要求ができるための支援
概 要
 Aさんは,写真カードによる1日のスケジュールを使用して学校生活に見通しを持って活動できており,スケジュールを次々にこなしていくことに充実感を感じている様子も伺える。その反面,まだ自分で目的的に遊ぶことが難しいため,休み時間になると時間を持て余すことが多く,遊ぶことができる時間が残っていてもスケジュールを手差しして次の活動を要求することが1日のうちに何回かみられる。
 そこで,自分でしたい遊びを増やし,写真カードで教員に伝える手段を身につけることで休み時間を有意義に過ごしてほしいと考え,実践を進めることにした。

対象児のプロフィール
Aさん 小学部1年生 男子 自閉症

諸検査結果
PEP-R発達検査(H18.8.11実施) 
1歳9ヶ月

障害の特性
視覚優位


指導者
担任3名

長期目標
選択ボードの中の数枚の遊びの種類カードからしたい遊びカードを選択し、教員にカードを手渡して要求することができる。

短期目標
選択ボードの中の3枚の遊びの種類カードからしたい遊びカードを選択し、教員にカードを手渡して要求することができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
短期目標と同じ

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
 指導前の休み時間の状況については,Aさんはまだ自発的に遊ぶことが難しかったため,スケジュールカードで遊び場所を提示し,教員が介入して遊びに誘っていた。Aさんは,スケジュールに提示されたわくわく広場や中庭などの写真カードを見てその場所に行き遊具等で遊ぶが短時間しか遊ぶことができず,しばらくするとスケジュールの前に戻って次の活動をしたいと教員に手差しで要求する姿がみられた。
 後期に入ってから,Aさんの休み時間の様子を観察すると,かすかではあるがビデオに視線を向けたり,教員が誘うブランコやローリングカー等で笑顔がみられたりなど,Aさんが自分から興味を示す遊びが少しずつみられるようになってきた。
 そこで,休み時間に自分で好きな遊びをもち,写真カードの中から選択し教員に要求するというスキルを身につけることで,休み時間を有意義に楽しく過ごせるようになってほしいと考え,指導目標を設定した。
 Aさんのコミュニケーションスキルとしては,周囲の人に視線を向ける,直接的行動(手差しをする・手を引く)等の手段で,欲しい物やしたいことを要求することが多い。今年度9月頃給食時や調理の時に,おかわりの要求を絵カードで伝えることができるようになった。選択のスキルとしては,2つの具体物では選択できるが,2枚の写真カードからの選択はまだ意味が理解できていない状況であった。

般化場面
家庭での遊び時間

指導場面
【指導開始5日目まで】朝の自由遊びの時間
【指導開始6日目以降】全ての休み時間

指導手続
<指導手続き1>
1,休み時間に,Aさんの好きな遊び(ブランコ,ローリングカー,ビデオ,アイロンビー ズ等の中から2〜3種類)の写真カードを貼った遊びの選択ボードを教員1が提示しながら「どれにする?」と問いかける。
2,Aさんがどちらかの写真カードに手を伸ばしたら,後方から教員2が身体的ガイダンスによって,写真カードをつまむ,教員1に写真カードを手渡す,という動作を支援する。
3,教員1は「ちょうだい」のサインを出す。
4,教員1は,写真カードを受け取ったら,すぐに遊び道具をAさんに手渡すか,遊び場所 に行けることを保障する。
5,徐々にプロンプトをフェイドアウトしていく。

<指導手続き2>
指導開始12日目以降の指導手続きとして,
・選択ボードをスケジュールの横に設置する。
・ビデオは棚の上に上げておき,カードと交換で手渡すようにする。
 の2点を追加した。

教材教具など
本児の好きな遊び道具(ブランコ、わくわく広場、ビデオ、アイロンビーズなど)
本児の好きな遊び道具の写真カード

達成基準
プロンプトなしで写真カードを選択し手渡して要求できた日(平均点数0点)が3日間連続したら達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
プロンプトを次のように点数化し記録する。
・身体的ガイダンスが必要〈2点〉
・身体的ガイダンス以外のプロンプト(指さし,ことばがけ,ちょうだいのサイン)が必要〈1点〉
・プロンプトなし〈0点〉
1指導場面のプロンプトの平均点数(1日の合計点数/指導場面の数)を出す。

指導期間
H18年11月3日〜11月30日

結果
 最初の5日間は,指導場面を「朝の自由遊びの時間」のみに限定し,2種類の選択肢で指導を行ったが,始めの2日間は選択の意味が理解できず,身体的ガイダンスが必要であった。3日目からは選択できるようになったが,目の前の教員に写真カードを手渡して要求するのはまだ難しく,目の前の教員が両手を差し出して「カードください」のサインのプロンプトが必要であった。6日目以降は,指導回数を増やすため指導場面を全ての休み時間に変更した。また2種類の選択肢での選択が可能となったため,選択肢を3種類に増やした。7日目から,1日に1回程度はプロンプトなしで写真カードを手渡しできる場面がみられ始めたが,まだ手渡しできないことが多かったため,「ちょうだい」のサインやことばがけのプロンプトが必要であった。
 教員が選択ボードを提示している状態で,その教員にカードを手渡すことはAさんにとって難しいと考えられたので,12日目以降は選択ボードをスケジュールの横に設置し,ビデオは棚の上に上げ,写真カードとビデオの交換を分かりやすくした。また,教員はそのボードの横に立ち,Aさんが写真カードを手渡すとビデオを渡すように手続きを変更した。すると,手続き変更後2日目から教員に写真カードを手渡しできる回数が急激に増え,手続き変更後7日目(指導開始18日目)に目標を達成した。

考察
 指導前にはビデオが見たいという要求はほとんど見られなかった。しかし指導場面において,選択した遊びは全てビデオ視聴であった。指導前は,好きな遊びを要求するスキルが獲得できていなかったため,Aさんが本当にしたい遊びができず,休み時間を持て余してしまうといった状況があったのではないかと推測される。
 この実践をとおして,Aさんが休み時間を持て余したり,休み時間を切り上げたくて次の活動を要求したりすることはほとんどみられなくなった。休み時間に自分の好きな遊びをもって目的的に過ごすことができる時間が増え,生活全般においても自主的に行動できる場面がみられるようになってきている。Aさんにとって好きな遊びが保障されていることが好子となり,生活全般において好子を期待して苦手な活動も乗り越えようとする姿勢も育ってきた。 
 また,実践中は選択した遊びは全てビデオ視聴であったため,実践終了後,遊びを拡げるためにビデオのカードを提示しない休み時間を設定し指導を行った。その結果,他の遊び(ソフトマットやブランコ,ローリングカー等)を教員に要求し,一緒に遊ぶという姿も徐々にみられるようになった。現在では,ビデオのカードが提示されていてもブランコを選択する姿もみられるようになり,遊びの幅が拡がってきている。
 今後も,遊びの選択肢をさらに増やし,Aさんが自分のしたいことをより的確に伝えられる機会を設けていきたい。


指導前
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間
スケジュールに提示されている遊び場所に行った時
遊ぶ 何をしてよいか分からない(↑?)

指導前
A:先行条件 B:行動 C:結果
何をしてよいか分からない時 スケジュールに戻る 次の行動が分かる(↑)

指導場面
A:先行条件 B:行動 C:結果
休み時間,自分のしたい遊びを選んで,写真カードで教員に要求し,遊び場所に行った時 遊ぶ 自分のしたい遊びで遊ぶことができる(↑)


第一系列のタイトル: 1日の平均点数
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2  
第二系列のタイトル: 
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4  
記入日時 2006/11/01/17:00:55  No.301
記入者 S  E-Mail

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