概 要 |
本児は、場面は限定されるが、写真カードを手渡し「ください」と言って要求を伝えるスキルを獲得している。ことばでの指示理解が苦手な本児にとって、カードでの要求場面を増やしていくことが今後の生活に必要なことであると考えられる。
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諸検査結果 |
SーM社会能力検査 2歳10ヶ月(H18.8実施)
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指導者 |
担任2名 教員1:カードを受け取り欲しい食べ物の入った器を渡す。指導2日目以降プロンプトを行う。 教員2:指導開始日のみ。モデリングし、その後、本児の後方から身体的ガイダンスを行う。
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長期目標 |
日常生活全般で,自分の要求をカードと「ください」ということばで伝えることができる。
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短期目標 |
自分の欲しい食べ物をカードと「ください」ということばで伝えることができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
標的行動:自分の欲しい食べ物をカードと「ください」ということばで伝えることができる。
選んだ理由: 給食時,本児は「お茶ください」(コップの写真),「手伝ってください」(PCS),「ふりかけください」(実物の空き袋)の3種類のカードを使って要求を伝えることができている。しかし,もっと食べたいということを周りの人に伝えるスキルを獲得しておらず,もっと欲しい食べ物がある時に教員の器に手を伸ばし取ってしまう等,不適切な行動がみられた。そこで,給食場面において欲しい食べ物をカードで要求できるスキルを獲得させたいと考えた。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
もっと欲しい食べ物がある時に、隣の人の器に手を出したり、欲しい食べ物を勝手に取ってしまったりの行動がみられる。また給食時に使っている「手伝ってください」カードを教員に渡し、他の人のお盆の上の自分の欲しい食べ物を指さしたりする行動がみられる。 欲しい物の選択に関しては、遊びたい場所、食べたいお菓子を写真カード4択程度から選択することができる。また、学習時、必要な道具(鉛筆、パンチ、はさみ)の写真カードを手渡し要求することができる。遊びたい場所を選択した時は、カードを教員に手渡し、「行ってきます」と伝えるようにしている。また、道具(パンチ、えんぴつ、はさみなど)のことばを発声する学習をしたことにより、「ください」と言うべき場面で、「とけー」と発声することがある。
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指導手続 |
●ベースライン 食べ物等のカード(メニューに応じてごはんの絵、みそ汁の絵、平皿の写真、小鉢の写真、デザートの写真をそれぞれ2〜3枚)をボード(これまで使用してきた「ふりかけください」「手伝ってください」カードも貼っておく)に貼り、本児の手の届く位置に置く。食べ物を入れた器を本児が見えるが手の届かない位置に置いておく。プロンプトなしでカードを渡せた回数を記録する。食べる直前に余分にもらえる食べ物があることをことばと指さしで知らせる。ベースラインは3日間。 ●手続1(指導開始日のみ) 教員2が本児の後方より身体的ガイダンスをしカードを手に取り,隣にいる教員1に手渡し,「ください」とモデリングする。教員1はカードを受け取った直後「どうぞ」と食べ物の入った器を本児に手渡す。 ●手続2 正反応時は,カードを受け取り,「どうぞ」とすぐに食べ物の入った器を手渡す。 誤反応時は,以下のようにプロンプトを行う。 (1)カードの選択が間違っている時,「どれ」と言って選択ボードを指さす。 (2)「ください」を言わない時,「く」という音声を出す。または「く」の口形を示す。 (3)カードを渡せない時,身体的ガイダンスをする。 *11/2より器に入った食べ物とボードに貼ってある対応するカードを確認してから始める。 *11/22よりボードの食べ物のカードをメニューに応じて一種類につき1枚に変更。
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教材教具など |
ごはん、汁物、主菜、副菜、デザートを表すカード(各2枚) 食べ物を入れた器(カードの枚数分) カードを貼っておくボード おかわりを置く机
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達成基準 |
5日間連続誤反応なしで自分の欲しい食べ物のカードを「ください」と言って教員に手渡し,要求することができれば達成とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
正反応数と誤反応数を記録する。また,誤反応数については、種類別に回数を記録する。
*「ください」の前に他のことばが入ってもプロンプトなしに「ください」が言えれば正反応とする。
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結果 |
指導開始日から正反応がみられたものの,カードの選択が難しいことから誤反応数が上回る日が続いた。食べ始める前に器に入った食べ物とボードに貼ってある対応するカードを確認することで,カードの選択による誤反応は減った。また,要求できる回数を多く設定していたことから,「ください」を言わずカードのみ渡そうとする等焦って要求する様子がみられた。要求できる回数を一種類につき2〜3回の設定から一種類につき1回の設定に改めた。その後,正反応数が安定し,指導開始後21日目に達成することができた。
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考察 |
カードの選択を間違うことが多かった。具体物の写真カードを主に生活で用いている本児にとって欲しい食べ物をシンボル化したカードで選択することが難しいのではないかと考え,器に入った食べ物とボードに貼ってある対応するカードを確認してから始めると,選択は予測していたよりも早く可能になった。 しかし,欲しい食べ物のカードを確実に渡せるようになってきてから,本来発声できていた「ください」が「いってきます」等他のことばに摩り替わりプロンプトを必要とした。給食場面以外のカードとことばでの指導が影響したと考えられたため、他の場面で「ください」以外のことばの指導は控えることにした。「ください」の前に接頭語のように「とけー・・・」と言ってしまうことはあったが、プロンプトなしで「ください」と確実に言えるようになった。要求できる回数の多さと他の場面でのことばの指導により,本児は場面の整理がつかず混乱していたが,要求できる回数を一種類につき1回に再設定したことにより,安心して要求できるようになってきたと考えられる。
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もっと欲しい食べ物がある時
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
もっと欲しい食べ物がある時 |
隣の席の人の器に手を伸ばす |
叱られる 食べ物をもらえない |
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もっと欲しい食べ物がある時
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
もっと欲しい食べ物がある時 |
欲しい食べ物のカードを渡す |
欲しい食べ物がもらえる |
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第一系列のタイトル: 正反応数 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 指導手続き1
Intervention2: 指導手続き2
Intervention3: 指導手続き3
Intervention4: 指導手続き4
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第二系列のタイトル: 誤反応数 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 指導手続き1
Intervention2: 指導手続き2
Intervention3: 指導手続き3
Intervention4: 指導手続き4
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記入日時 2006/11/03/16:43:39
No.312
記入者 AH
E-Mail
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