2005-08



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小学部中学年の重複障害児が着替えなどの場面で発声とカードで援助要求を伝えるための支援
概 要
 本児のコミュニケーション手段は、直接的動作や表情、独自の身振り、数種類の発声などである。遊びの要求は写真カードや具体物と発声で伝えるスキルを持っている。また、腰に携帯したトイレの写真カードを教員に見せて、トイレの予告をすることができる。今年度から手伝ってカードを腰に携帯したところ、場面に応じたカードを選択して教員に見せようとしている。しかし、ビデオに撮ってみたところ、教員が注目していない時にカードを指さした後「お!」と言うなど注意喚起のタイミングがずれ、円滑に要求できていないことがわかった。そこで、要求がより正確に相手に伝わるよう、手だてを考えていくことにした。

対象児のプロフィール
H。小4。脳性まひ。

諸検査結果
新版K式発達検査:姿勢・運動 2歳4ヶ月 
         認知・適応 1歳8ヶ月
         言語・社会 1歳7ヶ月 
         全領域  1歳9ヶ月
              (H15.9.4実施)

障害の特性
・指先の細かい動作が困難。
・短期記憶の容量が少ない。
・発音が不明瞭で、正確に発声できる音が限られている。
・ゆっくりした動作が苦手。

指導者
担任2名

長期目標
カードで要求を確実に伝えることができる。

短期目標
手伝ってほしい時に「お!」と教員を呼び、手伝ってカードを渡す。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
標的行動:朝の着替え場面で、自分でできないことがある時に「お!」と言って教員を呼び、手伝ってカードを渡すことができる。

選んだ理由:本児は、着替え場面において、特定の友だちを叩きに行く、ウロウロするといった問題行動がみられる。できないことから逃避したい時や手伝ってほしいという要求を担任にわかってもらえない時、また、何をしたらいいのかわからない時に、友だちを叩くなどの行動に出ていたと考えられる。そこで、自分でできないことがある時、教員に手伝ってほしいと確実に伝えられる要求スキルを獲得することで問題行動が軽減するのではないかと考えた。着替えの課題分析をしたところ、装具を外す、ポロシャツのボタンを外す、制服ズボンのホックを外す、トレパンに足を入れる、靴に踵を収めることについては、確実に支援が必要であった。

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
着替え場面では、カードを携帯していないため、「お!」と言って教員に手伝いを要求している。しかし、教員が離れた場所にいるなどして要求が伝わらないときに問題行動が見られる。

般化場面
(1)課題で手伝ってほしい時。
(2)担任以外の教員に対して。
(3)家庭で手伝って欲しいことがある時。

指導場面
朝の着替え時間。

指導手続
〔step1〕 本児の着替えコーナーの前(手の届く位置)に教員が座る。

〔step2〕 本児の着替えコーナーから1m離れた位置に教員が座る。

step1、2ともに以下のように行う。

○ベースライン
手伝ってカードを本児の手の届く位置に貼っておき、プロンプトなしでカードを渡せた回数を記録する。ベースラインは3日間。

○手続1(指導開始日のみ)
他の教員が本児の後方から身体的ガイダンスを行いカードを手に取り、「おねがいします」とモデリングし、身体的ガイダンスを行い教員に手伝ってカードを渡す。教員は、手伝って欲しい部分を確認し、すぐに手伝う。

○手続2(指導開始2日目以降)
正反応時はカードを受けとり、「どこ?」と手伝ってほしい部分を確認し、賞賛し、すぐに手伝う。
10秒待っても正反応が出ない場合は、\x{2460}から順に10秒ごとにプロンプトを行う。
    \x{2460}カードへの指さし、または、カードへ視線を送る。
    \x{2461}「カード」とことばかけをする。
    \x{2462}身体的ガイダンスを行う。



教材教具など
手伝ってカード(着替えコーナーの間仕切りホワイトボードに貼っておく。教員は、渡された後、元に戻す。)

達成基準
正反応が5日間連続4回以上で、プロンプトの合計が5日間連続1点以内になれば達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
〔ベースライン、step1、2〕
朝の着替え場面で教員の支援を必要とする5場面(装具を外す、ポロシャツのボタンを外す、制服ズボンのホックを外す、トレパンに足を入れる、靴に踵を収める)で「お!」と教員を呼んで手伝ってカードを渡した回数を記録する。
また、どのようなプロンプトを必要としたか点数を記録する。

 ・身体的ガイダンス 3点
 ・ことばかけ      2点
 ・指さし 視線     1点

*10/31より、制服ズボンのホックを外すからブレザーのボタンを外すへ変更した。
*step2においては、本児が「お!」と言い教員を呼んだ場合、離れている教員へ本児が近づいて行った場合とも標的行動が出れば正反応とした。

グラフ№11の縦軸には、正反応の回数とプロンプトの点数を表した。

指導期間
〔step1〕
平成17年10月25日〜11月22日

〔step2〕
平成17年11月24日〜12月5日

結果
〔step1〕
ベースラインでは正反応がみられなかったが、指導開始日には5場面のうち3場面でプロンプトを行うと2場面で正反応がみられた。プロンプトの合計点数は、4日目には指導開始日の3分の1に激減した。7日目からは、正反応数が安定してきた。途中、環境に左右され、正反応数が落ち込んだ日が1日あったが、その後は順調に基準を達成した。
〔step2〕
ベースラインの時点で達成した。1m離れた位置の教員を通り越して、3m以上離れた位置の教員に要求しに行くこともあった。

考察
 要求スキルの獲得の指導場面としては、着替え場面は複雑ではないかと考えられたが、本児の着替えスキルを課題分析し、教員の支援を必要とする5場面に焦点を絞ることで指導が可能になった。また、教員の注目を得、ほめられることが何よりも好子であり、できることは自分の力で取り組む姿勢の本児にとっては、適切な指導場面であったと考えられる。
 本児は、カードの使い方を指導開始日に理解したが、着替えのスタートに時間がかかったり、途中で動きが止まってしまったりする日が数日続いた。しかし、カードを渡すとほめられる、という好子を得られることへの気づきで、安定して正反応がみられるようになった。
 指導を続ける中で、本児は支援の必要な5場面でもすぐに教員に要求するのでなく、できる限り自分でやってみようとし、本当に困った時に状況を判断して、援助要求するようになってきた。教員に手伝うのは「どこ?」と確認されると、迷いなく手伝ってほしい部分を指さしで確実に伝えることができるようになった。また、周囲の環境に左右されやすい本児であるが、指導を始める前には気になっていた友だちの行動に左右されることなく、着替えに集中できるようになった。
 般化場面としては、記録をとった5場面以外の着替え場面でも「水筒の袋を開けて」「腰に携帯カードを吊して」等、「お!」と教員を呼びカードを渡して援助要求することができた。また、担任以外の教員に対しても要求することができた。着替え場面以外でも手伝ってほしいことがある時には「お!」と教員を呼び腰に吊したカードで要求できるようになった。
 本児は、援助要求のスキル獲得と平行して、確実に問題行動が減ってきている。ことばでのコミュニケーションが難しい本児にとっては、携帯カードを使用することが有効なコミュニケーションではないかと考えられる。携帯カードの使用についてはまだ円滑とは言い難く、今後新たに支援していく必要がある。誰が見ても要求が伝わるようなカードを携帯することで、学校以外でもカードでの援助要求が可能になり、コミュニケーションがより拡がっていくよう今後取り組んでいきたい。

着替えの途中に友達を叩きに行く
A:先行条件 B:行動 C:結果
一人で着替えができない
何をしたらいいのかわからない
着替えの途中に友達を叩きに行く 教員からの注目・関わり(↑)

手伝ってカードを教員に渡す
A:先行条件 B:行動 C:結果
一人で着替えができない
何をしたらいいのかわからない
手伝ってカードを教員に渡す 教員からの注目・関わり(↑)
着替えを手伝ってもらえる(↑)
ほめられる(↑)


第一系列のタイトル: 正反応数
Baseline1: ベースライン   Intervention1: 本児の着替えコーナーの前(手の届く位置)に教員が座る。   Baseline2: 本児の着替えコーナーから1m離れた位置に教員が座る。   Intervention2:   
第二系列のタイトル: プロンプトの合計点数
Baseline1: ベースライン1   Intervention1: 本児の着替えコーナーの前(手の届く位置)に教員が座る。   Baseline2: ベースライン2   Intervention2: 本児の着替えコーナーから1m離れた位置に教員が座る。  
記入日時 2005/09/07/17:22:04  No.11
記入者 ばなな  E-Mail

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