2005-16



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小学部中学年の知的障害児に対する、遊びの時間に教室を出る時は、行きたい場所を教師にカードを手渡して要求する指導
概 要
遊びの時間に、自分の行きたい場所でやりたいことができるという事は、情緒が安定した生活を営むために重要である。そのため、自分の行きたい場所を教師に伝えることは将来の生活を豊かにする上で重要なスキルである。この事例では、写真カードを貼ったファイルを利用し、それが壁に掛かっている時はカードを教師に手渡して要求する指導を実施する。

対象児のプロフィール
B児。
小3男児。乳児良性ミオクロニーてんかん。自閉傾向あり。手先を使う作業(ビーズ通しなど)には集中できる反面、日常生活動作や気の向かない活動には注意・集中が散漫で落ち着きがなくなる。多動気味であり、興味の対象が短時間で変わりやすい。

諸検査結果
S‐M社会生活能力検査 SA2歳0ヶ月(平成15年度)
乳幼児発達スケール 総合発達年齢1歳0ヶ月(平成16年度)

指導者
担任1名

長期目標
写真カードのファイルが壁にかけてある時は、行きたい場所を、教室内にいる教師に写真カードを手渡すことで要求できる。

短期目標
昼休みに、行きたい場所を、教室内にいる教師に写真カードを手渡すことで要求できる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
昼休みに、行きたい場所のカードを教室内にいる教師に手渡すことができる。
【指導手続き1】教師が出口の前に立ち、手を差し出す条件
【指導手続き2】教師が出口の前で立つ条件
【指導手続き3】教師が教室内でファイルを掛けた壁から見える位置に立つ条件
【指導手続き4】教師が教室内でファイルをかけた壁から見えない位置に立つ条件
標的行動とこれを選んだ理由
 本児の要求機能のコミュニケーションは、様々な場面で言葉によって行うことができる。しかし、独特の言語表現があり、(例:ビデオが見たいときもラジカセを取ってほしいときも「テープをください」と言う。)一度覚えた要求言語を正しく訂正することは難しいため、第三者には本児の要求が伝わりづらい場面も多い。また、興味のあるものの方へ衝動的に走ってしまうことがあるため、移動の要求を伝えることは十分でない。行きたい場所を誰にでも正しく理解できる方法で教師に伝達することは、非常に重要なスキルであると思われる。

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
本児の要求場面におけるコミュニケーション手段としては、主に本児の理解している表現で言葉で伝える方法である。教室外に出たい場合、教室の扉を内からロックしている時や教師が側にいるときには「おそと」と言葉で要求できる(どこに行きたいかは伝えられていない)。遊びの時間は午前中2回と昼休みであるが、昼休みには教室外で遊ぶことが本児のルーティンに組み込まれている。6月より、昼休みに教室外に出たい要求があったときに、場所の写真カード(2階ビデオコーナー・東ホール・中庭)が貼ってあるファイル(出口付近の壁に掛けてある)を教師が開いて見せ、指差しと身体的ガイダンスのプロンプトを出せばカードを教師に手渡すことができている(記録なし)。実際の場所とカードも一致するようになってきた。しかし、扉が開いていて、教師の注目が外れている状態では黙って走り出ていく(ほとんどの場合は2階ビデオコーナー)。

般化場面
(1)学校:昼休み、指導者Yとは別の担任教師に写真カードを手渡す。
(2)学校:ファイルが壁に掛かっている遊び時間、写真カードを教室内の教師に手渡す。

指導場面
教室外に出て遊んでよい遊び時間(昼休み)

指導手続
・出口の手前の右壁(スケジュールボードの反対側)に、場所の写真カード(2階ビ デオコーナー・東ホール・中庭)を貼ってあるファイルをかけておく。
・昼休み以外はファイルをはずしておく。
・教室の扉は、教師が他の児童の対面課題などしている間はロックし、指導場面以外の時間には教室を出られないように配慮する。「おそと」の要求があったときは、ファイルが掛かっていないフックを指差し、「カードないよ」と言う。
・ビデオ視聴が終わると教室に戻り、次の遊び場所のカードを取り直してから移動するようにする。
・指導手続き1・2の間、カードを渡さず教室で遊び始めたときは、様子を見ながら、外へ出たいそぶりが見えれば教師は出口へ移動する。

【指導手続き1】教師が出口の前に立ち、手を差し出す条件
遊びの時間(昼休み)、本児がスケジュールを確認するとき出口の前に立ち、手を差し出す。

【指導手続き2】教師が出口の前で立つ条件
遊びの時間(昼休み)、本児がスケジュールを確認するとき出口の前に立っておく。

【指導手続き3】教師が教室内でファイルを掛けた壁から見える位置に立つ条件
遊びの時間(昼休み)、本児がスケジュールを確認するとき、3m以上離れているが本児からは教師が見える位置に立つ。

【指導手続き4】教師が教室内でファイルをかけた壁から見えない位置に立つ条件
遊びの時間(昼休み)、本児がスケジュールを確認するとき本児から見えない位置(出口→本児→教師)に立っておく。

教材教具など
場所カード・ファイル

達成基準
正反応が3日間連続したら達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
各場面、各行動において
プロンプトなくできた・・・1点
プロンプトあり・・・0点
(声かけ、指差し)
*各行動(般化場面、指導場面共通)
1.ファイルを開く
2.正しいカードを取る
3.教師に手渡す
*1場面すべてプロンプトなくできた場合は、3点満点とする。

指導期間
2005年9月13日〜12月12日

結果
指導手続き1では、指導開始から4日間は教師がファイルを開くプロンプトを必要とした(教師の手に置くことはできた)。5日目より、自分でファイルを開き写真カードを選ぶことができるようになった。全てのプロンプトを必要としなくなってからも、取ったカードとは別の場所へ行く誤反応が見られたが、10日目より確実にできるようになった。
指導手続き2では、自分でファイルを開き写真カードを選ぶことはできても、教師に渡すことが出来ず、取ったカードを持って教師の顔をじっと見ていることが続いた。その状態が9日間続いたため、カードを取り、本児が学習している要求言語「お願いします」を言えば教師が手を差し出すように手続きを変更した。変更後4日目には「お願いします」と言えるようになった。変更後11日目には「お願いします」と言ってカードを差し出すようになったため、教師から手を差し出すのをやめ、元の手続きに戻した。
指導手続き3では、指導開始初日からプロンプトなくでき、達成まで2回の誤反応が見られたが、6日目からは確実にできた。
指導手続き4では、5日目より確実にできるようになった。
壁にファイルがかかっていない場合には、いつもはファイルがかかっている壁のあたりを探し、教員の様子を伺いながらそのまま教室外に飛び出す結果になった。

考察
 指導手続き1では、教師が出口をブロックしている条件であった。6月からの指導により、ファイルからカードを取って教師に渡すという行動は経験できていた。その上、教師が出口をブロックしているため、外に出るにはカードを教師に渡すことが必須条件であったため、一連の行動が獲得できたと思われる。また、東ホールのカードを取って出ていたものの2階からのビデオの音が気になり、2階のビデオコーナーへ走っていく誤反応が見られた。しかし、2階のビデオコーナーが高学年児童のために再構造化され、本児の苦手な扉が閉まった狭いスペースでビデオを見るようになったため、2階のビデオコーナーへのこだわりが薄れたことで誤反応がなくなり目標が達成できたと考えられる。
 指導手続き2では、教師は出口には立つものの、手を差し出さない条件であった。指導開始当初、カードを教師に手渡せなかったのは、自発的にカードを渡して教師に要求する経験がないこと、教室を勝手に出た時に指導教師から連れ戻されていた経験から教師に渡すことができなかったのだと考えられる。そのため、本児が学習している「お願いします」という要求言語を利用し、教師が手を差し出すよう手続きを変更したことが、目標の達成に有効であったと考えられる。
 指導手続き3・4では、教師が本児から離れたり、見えない位置に立つ条件であったが、教師にカードを渡して教室から出て行くという行動は学習されていたことで達成までの期日が指導手続き1・2より短かったと考えられる。
 昼休み前にファイルを出さず、壁にファイルがかかっていない場合には、教室外に飛び出す結果であった。本児と壁のフックの前でファイルがかかっていないことを確認し、教室で遊びことを促す指導を続けたが、ファイルがある時は教室外に出てよいということは学習できていない。
 般化については、指導教師が他の児童の指導をしている時、指導教師以外の教師にカードを渡す行動が1度見られた。しかし、ほとんど指導教師が教室内にいたため、般化の機会が用意できなかった。
 今後は、教室内で遊ぶ時間の指導(教室内で遊ぶことが理解できるカードをかける等)と般化のための指導を続けていきたい。
 
 

参考にした先行研究や事例など
コラボレーションプロジェクト2004 5−3:教室を出るときに行く場所のカードを教師に手わたして伝える指導(指導者 DJ)

【指導手続き1】教師が出口の前に立ち、手を差し出す条件
A:先行条件 B:行動 C:結果
昼休み、教室外に遊びに行きたいとき

壁に掛けられたファイルがある時
《正反応》
a)壁に掛けられたファイルを開き、正しい場所カードを選択し、出口に立って手を差し出している教師に手渡すことができる。

《誤反応》
b)カードを取らず、出て行こうとする。



c)取ったカードと違う場所に行こうとする。
《正反応》
「じゃあ行こうか」と出口を開ける。



《誤反応》
5秒は無反応で待つ。それでも正反応が見られない場合はファイルを指差しする。

「違うよ」と声かけし教室に戻るよう身体的ガイダンスで促す。スケジュールカードをボードに戻し、ファイルから写真カードを選ぶところから再履行。教師出口の前で立ち、手を差し出す。渡されたカードを受け取る時「ビデオね?」と場所を声かけで確認する。

【指導手続き2】教師が出口の前で立つ条件
A:先行条件 B:行動 C:結果
昼休み、教室外に遊びに行きたいとき

壁に掛けられたファイルがある時
《正反応》
a)壁に掛けられたファイルを開き、正しい場所カードを選択し、出口に立っている教師に手渡すことができる。

《誤反応》 
b)カードを取らず、出て行こうとする。


c)取ったカードと違う場所に行こうとする。
《正反応》
「じゃあ行こうか」と出口を開ける。



《誤反応》
5秒は無反応で待つ。それでも正反応が見られない場合は手を差し出す。

「違うよ」と声かけし教室に戻るよう身体的ガイダンスで促す。スケジュールカードをボードに戻し、ファイルから写真カードを選ぶところから再履行。教師は出口の前で立つ。渡されたカードを受け取る時「ビデオね?」と場所を声かけで確認する。

【指導手続き3】教師が教室内のファイルをかけた壁から見える位置に立つ条件
A:先行条件 B:行動 C:結果
昼休み、教室外に遊びに行きたいとき
   +
壁に掛けられたファイルがある時
《正反応》
a)壁に掛けられたファイルを開き、正しい場所カードを選択し、教室内のファイルをかけた壁から見える位置に立っている教師に手渡すことができる。

《誤反応》
b)カードを取らず、出て行こうとする。


c)取ったカードと違う場所に行こうとする。
《正反応》
「じゃあ行こうか」と出口を開ける。





《誤反応》
「違うよ」と声かけして教室へ戻るよう促し、出口の前に立つ。

「違うよ」と声かけし教室に戻るよう身体的ガイダンスで促す。スケジュールカードをボードに戻し、ファイルから写真カードを選ぶところから再履行。教師は本児から見える4mぐらい離れた位置に立って待つ。教師は渡されたカードを受け取る時「ビデオね?」と場所を声かけで確認する。

【指導手続き4】教師が教室内のファイルをかけた壁から見えない位置に立つ条件
A:先行条件 B:行動 C:結果
昼休み、教室外に遊びに行きたいとき
  +
壁に掛けられたファイルがある時
《正反応》
a)壁に掛けられたファイルを開き、正しい場所カードを選択し、教室内のファイルをかけた壁から見えない位置に立っている教師に手渡すことができる。

《誤反応》  
b)カードを取らず、出て行こうとする。







c)取ったカードと違う場所に行こうとする。
《正反応》
「じゃあ行こうか」と出口を開ける。





《誤反応》
「違うよ」と声かけして教室へ戻るよう促す。教師は本児から見える4メートルぐらい離れた位置に立つ。2試行目もカードを取らず出て行こうとした場合は「カード」と声かけする。

「違うよ」と声かけし教室に戻るよう身体的ガイダンスで促す。スケジュールカードをボードに戻し、ファイルから写真カードを選ぶところから再履行。教師は本児から見える4メートルぐらい離れた位置に立つ。教師は渡されたカードを受け取る時「ビデオね?」と場所を声かけで確認する。


第一系列のタイトル: 得点
Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4   No Fail: ファイルなし  
第二系列のタイトル: 
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4  
記入日時 2005/10/04/14:53:57  No.45
記入者 KY  E-Mail

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