2005-17



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小学部中学年の自閉症児に階段昇降運動におけるワークシステムの理解を促す指導
概 要
階段運動を行うとき、どれだけの回数を行うのか、どうなったら終わりなのか、終わったら次に何をするのかを理解して行動できることは大変重要なことである。この事例では、チップボードを利用し、階段運動を自立的に行うことができるように指導を実施する。

対象児のプロフィール
小3男児
自閉症

諸検査結果
PEP-R:1歳1ヶ月(平成15年3月17日)
S-M社会生活能力検査:1歳5ヶ月(同上)
乳幼児発達スケール:0歳8ヶ月(平成16年)

障害の特性
多動で、見ることが苦手である。
要求言語はなく、具体物を差し出したり、クレーンハンドで要求したりする。
拒否は、手ではらいのけたり、座り込んだりして示す。

指導者
KE


長期目標
ボードのチップ(黄色の缶)5個を上から下に1個ずつ取ることができる。

短期目標
ボードのチップ(黄色の缶)3個を上から下に1個ずつ取ることができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
本児は、昨年度までの階段運動では、教師がチップ(黄色のボール)10個が入ったかごを差し出すと自らかごの中からチップ1個を取り、チップを持ったまま階段の昇降を行い、終わると箱にチップを入れることができていた。そこで、今年度はボードに貼り付けたチップ(黄色の缶)を上から順に1個ずつ取って階段の昇降を行うことができるようにしたいと考えた。本児は、ボードを使用してからも、チップを取ってから階段運動を始めるということや、箱にチップを入れるということはできている。また、チップがなくなったら終わりということも視覚的に理解できているようである。しかし、ボードのチップを上から下に取ることや1回に1個取るという習慣がまだ身に付いていないように思われる。今後、日常の生活や活動内容に見通しを持って、自主的に取り組むことができるようにするためにも、ボードのチップを1個ずつ上から下に取る習慣を獲得することは大変重要であると考え、目標を設定した。


指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
本児は、トランジッションコーナーに置いてあるボードを持って、階段運動の場所まで移動している。ボードからチップを取って階段運動を始め、チップを持って階段を下り、階段下に置いてある箱の中にチップを入れている。最後は、トランジッションカードの黄色の板を持って、教室へ帰ることができている。ボードのチップを取るとき、両手で1個ずつ1回に2個取るときや、上から下への順番は意識せず、手が伸びたところのチップを取るといった状態であった。

般化場面
学校:体育館の運動のランニングでチップボードを使用することができる。
学校:校舎の周りのウォーキングでチップボードを使用することができる。

指導場面
朝の活動の時間(9:50頃〜)か朝の運動の時間(10:40頃〜)のどちらかで1日1回行う。

指導手続
教室前の階段半分を使用する。階段の下に椅子を置き、椅子の上にチップを入れる箱を置いておく。その周りを衝立で囲んでおく。階段の上のボードを置く場所の周りを、衝立で囲んでおく。ボードを置く場所にかごを置いておく。
トランジッションエリアにチップとトランジッションカードを貼り付けたボードを置いておく。

〔指導1〕ボードにチップ2個を貼り付けておく条件(チップ1個目を取るとき、指導を行う)
\x{2460}教師が本児の後ろから、左手を押さえる。右手の手首を持って、取るべきチップへ右手を持っていくようにする。
*ABC分析1参考

\x{2461}本児が左手をボードの方へ伸ばしかけたら、教師が本児の後ろから左手をブロックする。本児が右手で取るべきチップ以外のチップを取ろうとしたら、教師が本児の後ろから右手の手首に軽く手を添え、取るべきチップの方へ右手を持っていくようにする。
*ABC分析2参考

\x{2462}教師が取るべきチップを指さしする。
*ABC分析3参考

\x{2463}教師はプロンプトを出さない。
*ABC分析4参考

〔指導2〕ボードにチップ3個を貼り付けておく条件(チップ2個目を取るとき、指導を行う)
〔指導1〕の\x{2460}\x{2461}\x{2462}\x{2463}と同様の指導の手続きを行う。
*ABC分析1〜4参考(チップ2個目を取るとき指導1のチップ1個目を取るときの指導と同様に行う)
\x{2460}〜\x{2463}のプロンプトの出し方で指導を行い、本児のチップを取るときの様子に合わせて教師のプロンプトを減らしていく。


教材教具など
チップ(黄色の缶) トランジッションカード チップボード チップボードを入れるかご チップを入れる箱 椅子 チップを入れる箱の周りを囲む衝立 チップボードの周りを囲む衝立 

達成基準
指導1の\x{2460}の方法で5日間連続してチップを取ることができたら達成とし、\x{2461}へ移行する。\x{2461}、\x{2462}についても同様の達成基準とし、達成できたら指導2へ移行する。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
1 教師が本児の後ろから、左手を押さえる。右手の手首を持って、取るべきチップへ右手を持っていくようにすることでできた。…×(2点)
2 本児が右手で取るべきチップ以外のチップを取ろうとしたら、教師が本児の後ろから右手の手首に軽く手を添え、取るべきチップの方へ右手を持っていくようにすることでできた。…□(4点)
2′本児が左手をボードの方へ伸ばしかけたら、教師が本児の後ろから左手をブロックすることでできた。…△(6点)
3 教師が取るべきチップを指さしすることでできた。…○(8点)
4 一人でできた。…◎(10点)


指導期間
平成17年10月〜平成18年1月

結果
指導1の\x{2460}では、右手で1個目のチップを取るということを4日間行った結果、一人でほぼ確実にできるようになった。達成基準では5日間連続としていたが、5日目に本児の右手の動きを見てみると、自ら1個目のチップの方へ手が伸びていたので本児の左手のブロックのみ行った。その後、右手は確実に1個目のチップを取ることはできるようになった。左手は、右手がボードの方へ伸びると同じように左手もボードの方へ動いてしまうという動きが見られ、\x{2461}の指導は11月の始め頃(約1ヶ月間)まで続いた。10月の後半頃、左手はボードに伸びかけるが、自ら止めるという動きも見られるようになったが、左手のブロックをはずすことはできなかった。約1ヶ月半後に指導1を達成することができた。
指導2では、初日から1個目のチップは確実に取ることができた。2個目のチップは\x{2460}を3日間行い、4日目に本児の右手の動きを見ると、2個目のチップを取ろうとしていたので\x{2460}の右手の教師のプロンプトは行わなかった。指導2では、\x{2461}の状態が約半月続いた。約1ヶ月後に指導2も達成することができた。
指導2を開始してから、チップを箱に入れると他の場所へ行こうとしたり、箱の上に足を置いたりする行動が見られるようになった。そこで、階段運動の環境を見直し、環境の整備を行った。主な変更は以下の通りである。
○活動に集中できるようにボードの周りとチップを入れる箱の周りを衝立で囲むようにした。
○チップを入れる箱の入り口をチップとほぼ同じ大きさにし、入れるときに少し力を加えないと入れることができないようにした。箱を椅子の上に置くようにした。
○ボードの高さを本児の背丈よりも低くし、少し腰を曲げる姿勢でチップを取るようにした。
○運動が終わったら次にどうするのか、見通しを持てるように、ボードの一番下にトランジッションカードの黄色の板を貼り付けておくようにした(以前は、教師が運動の最後にトランジッションカードを手で持って提示していた)。
この結果、以前のような行動は見られなくなり、チップを取るときやチップを箱に入れるときなどの活動では、以前よりも手元を見て取り組む姿が見られるようになった。

考察
本児は、右手でチップを取るというスキルは獲得できているが、右手がボードに伸びると同時に左手もボードに伸びてしまうという傾向があった。そのため、左手で間違ってチップを取ってしまう前に左手がボードの方へ伸びて行かないように、先に左手を押さえたり、ブロックしたりすることで、両手同時にボードの方で伸びるということがなくなった。
 チップ3個を貼り付けた指導2の条件では、2個目のチップを取るとき、指導1の条件と視覚的に同じように見えたが、約半月間かかった。これは、チップを貼っている高さが指導1のときよりも低くなっていたことや、階段運動2往復目ということがあり、本児にとってはまた新しい課題になっていたと思われる。しかし、指導2の達成期間が指導1よりは約半月短くなったということは、指導1で獲得したスキルが、指導2でも生かされたと考えられる。また、12月よりボードの高さを低くしたため、本児が腰を少し曲げチップを取ることで手元を見る瞬間が以前より長くなったとも考えられる。本児は見ることが苦手であるということもあり、指導2では、教師の指さしで取るべきチップを伝えるのではなく、本児の後ろからプロンプトを出すように取り組んだ。本児は、繰り返し正しくチップを取る体験を積むことで、体で動きを覚えて、確実にチップを取ることができるようになったと考えられる。
今後は、本児が階段運動に集中できる時間帯や環境の整備などを工夫したり、1回の回数や1日のセット数を考えたりしながら主体的の運動できるように継続して取り組んでいきたい。般化を促すために、屋外でのウォーキングのとき、ボードとチップ入れの箱との距離を少しずつ長くしていきながらウォーキングに見通しを持って活動できるようにしていきたい。

〔指導1〕ボードにチップ2個を貼り付けておく条件(チップ1個目を取るとき)\x{2460}
A:先行条件 B:行動 C:結果
ボードの前に来たとき (正反応)
a)右手で1個目のチップを取る。
(正反応)
a)「そう」と言う。

ボードにチップ2個を貼り付けておく条件(チップ1個目を取るとき)\x{2461}
A:先行条件 B:行動 C:結果
ボードの前に来たとき (正反応)
a)右手で1個目のチップを取る。

(誤反応)
b)ボードに両手が伸び、チップを取ろうとする。

c)右手で2個目のチップを取ろうとする。
(正反応)
a)「そう」と言う。

(誤反応)
b)左手を押さえる。右手の動きを見て、チップ1個目に誘導する。

c)右手を1個目のチップの方へ誘導する。

ボードにチップ2個を貼り付けておく条件(チップ1個目を取るとき)\x{2462}
A:先行条件 B:行動 C:結果
ボードの前に来たとき、教師が指さしたチップを見て (正反応)
a)右手で1個目のチップを取る。


(誤反応)
b)ボードに両手が伸び、チップを取ろうとする。

c)教師が指さしした以外のチップを取ろうとする
(正反応)
a)「そう」と言う。

(誤反応)
b)左手を押さえる。右手の動きを見て、チップ1個目に誘導する。

c)右手を1個目のチップの方へ誘導する。

ボードにチップ2個を貼り付けておく条件(チップ1個目を取るとき)\x{2463}
A:先行条件 B:行動 C:結果
ボードの前に来たとき (正反応)
a)右手で1個目のチップを取る。

(誤反応)
b)ボードに両手が伸び、チップを取ろうとする。

c)2個目のチップを取ろうとする
(正反応)
a)「そう」と言う。

(誤反応)
b)左手を押さえる。右手の動きを見て、チップ1個目に誘導する。

c)右手を1番目のチップの方へ誘導する。


ボード

チップ入れ

第一系列のタイトル: ボードにチップ2個を貼り付け、1個目を取った得点
Intervention1: 指導1   
第二系列のタイトル: ボードにチップ3個を貼り付け、2個目を取った得点
Intervention2: 指導2  
記入日時 2005/10/04/22:29:04  No.47
記入者 KN  E-Mail

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