概 要 |
学校生活の中で、できないことや分からないことがあった時など人に援助を頼む場面で「てつだってください。」と教員に伝えることは、将来の自立した生活や職業行動においても非常に重要なスキルである。この事例では、教員に言葉で「てつだってください。」を伝える指導を実施する。
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諸検査結果 |
KIDS 乳幼児発達スケール 総合発達年齢 2歳0ヶ月 (H16.4.26) (理解言語3歳3ヶ月、表出言語2歳7ヶ月)
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長期目標 |
「てつだってください。」と言葉で教員に伝えることができる。
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短期目標 |
自立課題の時間に、机上の「てつだってください。」文字カードを取り、指定された教員に手渡して「てつだってください。」と言葉で伝えることができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
自分で課題(1日1回、難易度の高い手順を含む写真入りの手順書を見て折り紙で作品を作る)を仕上げることが難しい時に、机上の「てつだってください。」文字カードを取り、指定された教員に手渡して「てつだってください。」と言葉で伝えることができる。
[Step1]教員が対面課題で対面に座る条件 [Step2]教員が自立課題コーナーから見える位置に立つ条件
標的行動とこれを選んだ理由 要求機能のコミュニケーションに関する発語としては、「ビデオください。」(ビデオを観てもいいですか)、「しめて!」(ドアを閉めて下さい)、「いって!」(離れて下さい)などあるが、一語文が多く、二語文に関しては発音が不明瞭である。要求機能のコミュニケーションに関する発語を増やすことは、学校生活においてコミュニケーションを円滑にし、また将来の職業行動においても重要であると思われる。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
援助を必要とする場面では、教員の腕をつかんで(クレーンハンド)「これ。」と言って援助を求めることが多く(朝の会「うた・たいそう」の折り紙作成時など)、「手伝ってください。」などの適切な発語は見受けられない。コミュニケーションに関して、H17年度前期の個別の指導計画(学習面)で「たりません。ください。」(不足分の報告)を教師に伝える指導を行っている。対面課題で行った後に自立課題に移っており、「たりません。ください。」カードを教員に手渡しながら「たりません。ください。」と言うことができている。また、本児の要求場面での発語である「やめて!」「いって!」を将来の職業行動を見据えて「やめてください。」「いってください。」と丁寧な伝え方ができるように促している。
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般化場面 |
1)学校:教員の援助を必要とする時(工作の時間など) 2)学校:担任以外の教師に伝える 3)家庭:家族の援助を必要とする時
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指導場面 |
課題学習(手順書を見ながら折り紙で作品を作成する)時 ※対面課題で学習後に自立課題に移る。
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指導手続 |
難易度の高い手順を含む文字、写真入りの折り紙手順書を用意する。援助が必要な場面での視覚的な手掛かりとして、手順書の下部に[わからないときは、「てつだってください。」]と明記しておく。「てつだってください。」カード(教員の顔写真付き)を課題学習机の右上端に設置する(マジックテープで固定し取り外し可能とする)。
手続(機会利用型指導法) 1、課題時間に下記の各[Step]の条件で教員が座る、または立つ。 2、作成中に手が止まる、または何回も折り直していたら、少し待つ(遅延プロンプト)。 3、要求反応がなければ、教員が本児の机上のカードを指さす。 4、視線を合わせて、教員に「てつだってください。」カードを手渡しながら、(カードを渡すが「てつだってください。」と言えない時は、教員が対象児の顔をのぞきこんで「てつだって(ください)。」とモデルを示して)「てつだってください。」と言ったら、 5、「花マル!」と誉めて、 6、「もう1回言ってみて。」と促す。 7、さらにもう1回言えるか、言おうとしたら「『てつだってください』だね。」と言いながら課題を手伝う。
[Step1]教員が対面課題で対面に座る条件 教員は対面課題で課題を提示した後も対面課題コーナーで座っておく。
[Step2]教員が自立課題コーナーから見える位置に立つ条件 教員は教室中央部の生活単元学習用机周辺で立っておく。
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教材教具など |
「てつだってください。」文字カード、写真入りの手順書(折り紙の折り方)、折り紙
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達成基準 |
[Step1]では手続2で正反応が5日連続したら[Step2]に移る。 [Step2]では手続2で正反応が5日連続したら目標達成とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
要求反応をする機会である手続2、4、7において、手続2は5点、手続4は3点、手続7は1点として正反応を記録する。
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結果 |
指導期間延長となり、本指導記録は2005年9月14日〜12月21日までである。また、指導2日目に写真入りの手順書ではなくめくり式(実物見本)の手順書を指導に用いたところ、本指導での適応性を感じたので教材教具の変更を行った。 Iくんが援助なしで課題に取り組む(折り紙を完成する)ことができた日は0点となっている。課題内容の変更が遅れたことによるものであり誤反応によるものではない。記録としては採用するが達成基準からは除いて指導を進めた。[Step1]では、援助なしで課題を取り組んだ日を除き、指導2日目から手続き2での正反応が5日連続し[Step2]に移った。現在[Step2]での指導を継続中であり目標達成には至っていない。
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考察 |
折り紙「つる」「かぶと」「ピアノ」「ボート」「コップ」「ペンギン」で指導を行ったが、「つる」は難易度が高く援助が必要な機会が頻出し、要求の発語を強化する指導手続きの実行に困難を感じた。今回の指導では「少しだけ難しい課題」を用意する必要があり、その課題設定に苦慮した。課題内容の変更が遅れて指導期間が延び、集中的な指導が行えなかったことが反省点として挙げられる。 手続7における要求反応は「もう1回言ってみて。」と声かけして促していたが、Iくんの様子から短い声かけが有効であると考え、「もう1回!」や「ん?」(聞こえないふりをする)に変更した。手続2よりも手続7における「てつだってください。」の方が声が大きく、発語が強化されていると感じた。また、指導当初はカードを教員に手渡して「てつだってください。」と言っていたが、指導が進むにつれてカードを見ることもなく「てつだってください。」と言うことができるようになった。このことから、今回の指導において機会利用型指導法は有効であったと思われる。 現在、生活単元学習の工作や調理の時間で援助を必要とするとき、朝の運動の腹筋運動で援助を必要とするとき(教員が足を押さえて取り組むようにしている)などで、遅延プロンプトにより「てつだってください。」と教員に言うことができている。要求の発語がないときは教員が「何ていうのかな?てつ(だってください)?」とモデルを示すと「てつだってください。」と言うことができている。 今後も目標達成に向けて課題学習で指導を進めるとともに、学校生活、家庭生活において般化場面を多く設定し、援助を必要とする様々な機会に「てつだってください。」と言葉で伝えることができるようになればと考える。
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手続2におけるABC分析
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
手続2
課題学習(手順書を見ながら折り紙で作品を作成する)で手が止まる、または何回も折り直している時(折り方が分からない時、苦手な時) |
【正反応】 a)「てつだってください。」カードを教員に手渡しながら「てつだってください。」と言う b) 「てつだってください。」と言う 【誤反応】 c)「てつだってください。」カードを教員に手渡すが、「てつだってくださいと言わない 【無反応→10秒間】 d)無反応 |
【正反応】 a) b)「花マル!」と賞賛して「もう1回言ってみて。」と促す 【誤反応】 c)対象児の顔をのぞきこんで「てつ(だってください。)」とモデルを示す 【無反応→10秒間】 d)対象児の机上のカードを指さす |
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手続4におけるABC分析
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
手続3
要求反応がなく、教員が対象児の机上のカードを指さした時 |
【正反応】 a)「てつだってください。」カードを教員に手渡しながら「てつだってください。」と言う b) 「てつだってください。」と言う 【誤反応】 c)「てつだってください。」カードを教員に手渡すが、「てつだってくださいと言わない 【無反応→10秒間】 d)無反応 |
【正反応】 a) b)「花マル!」と賞賛して「もう1回言ってみて。」と促す 【誤反応】 c)対象児の顔をのぞきこんで「てつ(だってください。)」とモデルを示す 【無反応→10秒間】 d)対象児の机上のカードを指さしながら「これは?」と声かけする |
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手続7におけるABC分析
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
手続6
「もう1回言ってみて。」と促した時 |
【正反応】 a)さらにもう1回「てつだってください。」と言う b) さらにもう1回「てつだってください。」と言おうとする 【誤反応】 c)「いやだ!」と言う d)「もう1回言ってみて。」と言う 【無反応→10秒間】 e)無反応 |
【正反応】 a) b)「『てつだってください』だね。」と言いながら課題を手伝う 【誤反応】 c)d)「てつだってください。」カードを指さしながら「これは?」と声かけする 【無反応→10秒間】 e)対象児の顔をのぞきこんで「てつ(だってください。)」とモデルを示す |
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第一系列のタイトル: 正反応 |
Intervention1: 〔Step1〕
Intervention2: 〔Step2〕
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第二系列のタイトル: 一人で実行 |
Intervention1: 〔Step1〕
Intervention2: 〔Step2〕
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記入日時 2005/09/26/14:43:44
No.29
記入者 AY
E-Mail
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