概 要 |
対象は、高1の自閉症生徒。休憩時間等に選択できる遊びがほとんどない。一人でも落ち着いて過ごせるための環境設定、自立課題の内容および指導方法について検討する。
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障害の特性 |
何をすればよいかわからない場面で混乱する。
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長期目標 |
休憩時間、課題をしながら一人で過ごすことができる。
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短期目標 |
好きな課題を自分で取ること、その遂行、片付けまでが一人でできる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
標的行動:作業の時間、与えられた課題に一人で取り組む。 これを選んだ理由:対象生徒は、一人でできる遊びがほとんどなく、休憩室のソァーにもたれてじっとしていたり、眠っていたりすることが多い。教室では、友だちの中でいることや教師に関わってもらうことが好きである。しかし、友だちがそれぞれの遊びをしていたり教師が関われなくなったりすると、急に走り出してパソコンの電源を切ったりCDのコンセントを抜いたりする。そのような不適切な行動で周りの注意を引くのではなく、一人でもできる遊びを覚え、将来的にはそれを自ら楽しみ選択できるようになってほしい。その最初のステップとしてワークシステムを導入し、自立課題への取り組みを教えていきたい。そして、卒業後の生活においても対象生徒が自ら環境を把握し安定した生活ができるための条件を明らかにしていきたいと考えた。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
対象生徒は、生活の様々な場面で教師の指示や関わりを求めようとする。教室での課題場面においても、動作を止めて教師の指示や関わりを待ち、終わりまで集中できないことが多い。
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指導手続 |
(1)壁に向かって設置した作業机の周りを衝立で囲む。右側に課題を片付ける棚を設置する。 (2)生徒にトランジッションアイテム(パズル)を渡し,自主的に着席するのを待つ(3秒)。3秒以内に行動しなければ,身体的ガイダンスで誘導する。 (3)生徒が着席したら,課題を机上に置き,課題を開始するのを待つ。3秒以内に開始しなければ,身体的ガイダンスで誘導する。 (4)生徒が課題を開始したら,教師は側を離れ,後方から観察する。 逸脱があった場合の対応: 動作の停止が見られた場合→10秒間は指示を出さない。10秒経過しても開始しないときは,指さしで促す。 離席がみられた場合→トランジッションアイテムを手渡す。アイテムをもらっても着席しなければ,身体的ガイダンスで誘導する。 (5)課題が終了したら,右側の棚に片付けるよう身体的ガイダンスで誘導する(徐々にフェイドアウト)。 (6)片付けができたら言葉でほめ,対象生徒の好きな関わり(手を叩き合うなど)をする。 (7)(3)〜(6)を3回繰り返す。 (8)休憩のアイテムを手渡す。
[ベースライン]今までに経験している援助のいらない課題をランダムに呈示した。 [指導手続き1]ボルト・ナットの組み立て課題の逸脱が多いため、固定式に改善した。 [指導手続き2]従事率は高いが従事時間が短い課題の量を増やした。 [指導手続き3]新しい課題(箱の凹みに円筒形の消しゴムを入れていく)を追加した。 [指導手続き4]従事率が高い課題の量を少し増やした。ピック課題の本数を9本増やし、新しく作成した。
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教材教具など |
・「ピックさし」などの今までに経験している好みの課題。 ・好みの課題の要素を含む新しい課題。
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達成基準 |
1つの課題に逸脱なく5分以上取り組めることが3日続く。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
指導場面:10秒間隔のインターバル記録法で課題従事率を求める。 ・課題に従事しているか(○)していないか(×)を5秒間観察し、次の5秒間に記録する。 ・[課題に従事しているインターバル数/全インターバル数×100]により従事率を求める。 課題終了までに要した時間を記録する。 般化場面:指導場面で達成した後、指導場面と同様の記録を取る。
グラフの縦軸には、課題従事率(第1系列)と1セッション中の課題従事時間(第2系列)を表した。
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指導期間 |
9月8日〜10月7日 フォローアップ:10月25日〜11月2日
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結果 |
[ベースライン]ビー玉、ブロック、コインをケースに入れる課題や、穴にピックをさしていく課題の従事率が高い。鉛筆にキャップを入れる課題やボルト・ナットの組み立ては、従事率が極端に低い。 [指導手続き1]逸脱がなくなり、従事率100%となった。 [指導手続き2]従事率は維持したまま従事時間が延びた課題もあったが、ピックさしの課題は従事率が低下した。 終了した課題の片付けが自発的にできるようになった。 [指導手続き3]初回の従事率は88%であったが,2回目からは100%となった。 [指導手続き4]ピック課題の従事率が低下した。他の課題の従事率は維持された。 [般化場面]プットインの要素を含む課題は、すべて従事率100%で、5分程度は逸脱なく課題に従事できた。ピックさしやボルト・ナットの課題は、3分程度は従事できたが、それ以上の時間を要する量になると従事率が低下した。 [フォローアップ]指導終了17日後、プットイン課題3種類を呈示してフォローアップを3日間行った。従事率は100%であった。
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考察 |
○ベースラインの記録より、対象生徒は、ボルト・ナット等の両手を協応させる課題にも一応は取り組めるが、単純に穴に物を落としていく「プットイン課題」のようには集中して取り組めないことがわかった。 ○指導場面および般化場面の経過からは、次の点が明らかとなった。 ・生徒の実態に合わせて課題の難易度を少し下げることにより負荷が少なくなり、一人で取り組めるようになる。 ・一対一対応の課題は、量が増えると極端に従事率が下がった。一人で長い時間課題に取り組ませるためには、負荷の少ない課題を選択するとともに、作業に集中できる範囲内の適量を呈示することが必要であると思われる。 ・対象生徒の場合は、終了が意識しやすい様々な種類のプットイン課題を開発していくことにより、集中して課題に取り組める時間も長くなっていくと思われる。 ・逸脱のない課題は、課題を手渡されてからできあがった課題を自分で片付けるまでの所要時間が3〜4分のものが多かった。ひとつの課題に長い時間取り組むことを期待するよりも、短い時間でも集中して取り組めるものを回数多く与える方が、従事時間の延びにつながると思われる。 ・対象生徒の課題遂行行動を定着させるために、2週間の校内実習における集中的な指導は効果があったと考えられる。 ・対象生徒が一人で過ごすことができるためには、「左から右」と「終わり」がわかるワークシステムの設定と、人の動きに左右されない場所の確保が有効であると思われる。 ○今後の課題 ・休憩時間に落ち着いて過ごすことができるためには、今回よりも長い時間一人で過ごせることが必要となる。ワークシステムが定着でき、自立課題が休憩時間の選択肢の一つとなれば、自分で楽しめる時間が増えていくことに繋がるのではないかと考える。 ・今回の指導で、対象生徒は逸脱のない課題の遂行と片付けができるようになった。しかし、自分で次の課題を取ることはまだできない。次のステップとして、「自分で課題を取る」ことを指導し、短期目標の達成を目指したい。 ・課題の種類を増やしていくことによって、好きな課題を本人が選ぶことも可能になるだろう。今後、対面学習で新しい課題の指導をし、レパートリーを増やしていくことも検討していきたい。
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
作業コーナー+一人でできる課題 |
課題に取り組む |
一人でできた(↑)
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
終わった課題 |
片付ける |
教師のほめ言葉「よくできたね」(↑) |
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第一系列のタイトル: 課題従事率の推移 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 条件1課題内容の変更
Intervention2: 条件2課題量の増加
Intervention3: 条件3新課題の追加
Intervention4: 条件4課題内容と量の変更
Generalization: 般化場面
follow-up: フォローアップ
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第二系列のタイトル: 3種類の課題への従事時間 |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 条件1課題内容の変更
Intervention2: 条件2課題量の増加
Intervention3: 条件3新課題の追加
Intervention4: 条件4課題内容と量の変更
Generalization: 般化場面
follow-up: フォローアップ
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記入日時 2005/09/24/21:23:10
No.28
記入者 MT
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