2003-06



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数字を書く指導
対象児のプロフィール
F児。小学部2年男児。自閉症。PEP−R:1歳9ヶ月(平成14年3月)

指導者
M.T

長期目標
材料棚に行って、材料の数(1〜10)を数えて、表に数字を記入し、終わったら教師に表を手渡すことができる。

短期目標
フェルトペンで、数字1〜10(数字の大きさ4cm)を、視写をして書くことができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
フェルトペンで、数字1〜10(数字の大きさ4cm、なぞり用線と補助の黒丸点あり)を、補助の点(黒丸)をつないで書くことができる。

標的行動
フェルトペンで、数字1〜10(数字の大きさ12cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)を、補助の点(黒丸)をつないで書くことができる。

標的行動を選択した理由
 書くことや描くことの経験ができていない。書くこと(描くこと)を学習することは余暇の楽しみ、お手伝い、学力の向上などにつながる。現在は数字チップを並べて遊んでいるが、数字が書けると遊びが広がると思われる。また、数概念では1〜10の計数は90%以上の正答でできるが、数字が書けないので数字カードを使用している。数字が書けると教材の選択肢も増えて学力の向上につながると考えられる。
 本児が書くためにはペンの持ち方を教え、ペン先をコントロールできるように力を入れて動かすことを教えることが必要である。自作プリント(大きさ6cm)を使って運筆の身体的ガイダンスを試みたが上手くいかなかった。プリントを改良し、数字の大きさを12cmに拡大したり、補助の点の数を多くしたりすると、プロンプトやガイダンスに応じて運筆コントロールができた。初めに、数字の大きさ12cmの学習で、指導者がポインティングプロンプトや言語プロンプトによる指導を進め、補助の点をつなげて書くという運筆のコントロールの向上を図りたい。一人でできるようになると、次に数字の大きさ8cmの学習につなげたい。

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
*クレヨンで描くことやペンで書くことは、自分からは進んでしないため経験は少ないが、なぐり描き(書き)をすることはある。なぞり書きでは、一直線を書くことができるが、波線やギザギザ線を書くと直線に近い線になってなぞることはできない。視写の経験はない。
*数字(4cm)のなぞり書きや点つなぎを身体的ガイダンスすると、拒否的であった。指差しプロンプトや言語プロンプトも効果なく自由に書いた。
*なぞり線や補助の点からはずれているが、意識できていた。
*トークンエコノミーシステムの学習経験があり理解できている。
*数(1〜10)に関するスキル
(○:できる、△:十分でない、×:できない、未:学習していない)
1 数唱…×(数唱はできない。音声模倣をしない。)
2 数字を読む(数字→数詞)…×(音声言語なし)
3 数字を書く(数詞→数字)…×(数字は書けない。教師が「さん」と音声で指示すると「3」カードを取ることはできるかもしれない?)
4 計数(数字→数対象)…○1〜5の数字を見て、数対象を数えて集合物を作ることができる。…△6〜10の数字を見て、数対象を数えて集合物を作ることは、80%以上の正答だが、少し間違う。
5 計数(数対象→数字)…○集合物(1〜5個の数対象)を数え、数字カードで表すことができる。…△集合物(6〜10個の数対象)を数え、数字カードで表すことは、80%以上の正答。(数字を書いて表すのではない。)
6 計数(数詞→数対象)…未
7 計数(数対象→数詞)…×集合物を数え、数詞で表すことはできない。音声言語なし。

ベースライン
ベースライン:運筆練習の自作プリント(数字の大きさ4cm、なぞり線あり)、フェルトペン、トークンシートを机上に設定する。「書いて」と声かけし、誤反応においても修正はせず、トークンチップを手渡す

般化場面
(1)自立課題の学習で一人で取り組むことができる。
(2)点つなぎで形や絵を描く遊びをする。
(3)いろいろな筆記用具や画材で書くことができる。

指導場面
課題学習の時間の内、1対1で行う場面

指導手続
(指導1)運筆練習の自作プリントA(数字の大きさ12cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)で、プロンプトやガイダンスを行いながら正しい書き方を指導する。1日にプリント3枚(6回)指導した後、テストとして4回一人で書くこととする。達成できると、次の数字の学習に進む。学習の順番は2,6,3,10,8,9,4,5,7の順とする。トークンエコノミーシステムを用いてプリントを5枚終えると、チップ5枚とお菓子を交換する。
(指導2)初めに運筆練習の自作プリントB(数字の大きさ8cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)で、プローブを行う。誤答の数字についてのみ、プロンプトやガイダンスを行いながら正しい書き方を指導する。1日にプリント2枚(8回)指導した後、テストとして4回一人で書くこととする。達成できると、次の数字の学習に進む。学習の順番は指導1と同じ。トークンエコノミーシステムを用いてプリントを3枚終えると、チップ3枚とお菓子を交換する。
(指導3)初めに運筆練習の自作プリントC(数字の大きさ4cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)で、プローブを行う。誤答の数字については、プロンプトやガイダンスを行いながら正しい書き方を、6回指導した後、テストとして4回一人で書くこととする。達成できると、次の数字の学習に進む。学習の順番は指導1と同じ。トークンエコノミーシステムを用いてチップとお菓子を交換する。
(指導4)自作プリントD(数字の大きさ4cm、なぞり線と補助の黒丸点は少々)を使用する。その他は指導3と同様に行う。
(指導5)自作プリントE(数字の大きさ8cm、なぞり線あり)を使用する。その他は指導3と同様に行う。
(指導6)自作プリントF(数字の大きさ4cm、なぞり線あり)を使用する。その他は指導3と同様に行う。

教材教具など
・運筆練習の自作プリントA(数字の大きさ12cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)
・運筆練習の自作プリントB(数字の大きさ8cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)
・運筆練習の自作プリントC(数字の大きさ4cm、なぞり線と補助の黒丸点あり)
・運筆練習の自作プリントD(数字の大きさ4cm、なぞり線あり、補助の黒丸点は少々あり)
・運筆練習の自作プリントE(数字の大きさ8cm、なぞり線あり)
・運筆練習の自作プリントF(数字の大きさ4cm、なぞり線あり)
・フェルトペン
・トークンエコノミーシステム用品

達成基準
正答はなぞり線から、はみ出さずに書くこととした。テストにおいて、4回全てが正答の場合、達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
指導場面の記録の取り方
テストにおいて正答のとき○、誤答のとき×として記録する。4回中○が1回の場合25%、4回中○が2回の場合50%、4回中○が3回の場合75%、4回中○が4回の場合100%、としてグラフ化する。同じ日に2回テストを行った場合は8回中の正答数を%で表す。

般化場面の記録の取り方
達成基準に達した後で、上述の3つの場面で同じように記録する。

指導期間
2003年9月〜2月。

結果
ベースラインで、運筆練習の自作プリント(数字の大きさ4cm、なぞり線あり)のなぞり書きの結果、数字1は正反応、他の数字は全て誤反応だった。数字(4cm)のなぞり書きや点つなぎで、身体的ガイダンスを行うと、拒否的であり、指差しプロンプトや言語プロンプトも効果がなかった。F児は一人でなぞり線を少し意識して書いたが線からずれていた。運筆練習の自作プリントA(数字の大きさ12cm)で指導を試みると、プロンプトやマニュアルガイダンスが有効であったため、12cm大の数字から指導を開始した。
指導1では、全ての数字について正しい書き方を指導し、なぞり線からはみ出た場合は身体的ガイダンスにより修正した。指導1の数字4,5,7に学習まで進んだときは、1セッションで達成できるようになった。指導2では数字2と6の指導後、初めにプローブを行ってから、誤答の数字についてのみ、指導を実施するようにした。指導2のプローブでは、数字8と9が誤答であった。指導3のプローブでは、数字8と9と5が誤答であった。指導4のプローブでは、数字8と9と10が誤答であった。指導5のプローブでは、誤答の数字は無かった。指導6のプローブでは、数字3と9と10が誤答であった。指導2から6のプローブにおいて誤答であった数字は、1or2セッションの指導でスムーズに達成できた。指導6で、なぞり書きについての指導計画は終了することとした。 

考察
本実践では、数字の正しい書き方、ペンの持ち方、左手での用紙の押さえ方、なぞり線の先方向を見る目の使い方、右手の微細コントロール力の5点について以下の通りであった。
 正しい書き方(線の方向、書き順、線の結び方等)ができなかった数字は、4、5、7、8、9の5つであった。正しい書き方をガイダンスで教えると数回で無理なく覚えたため、2試行目からは書き方指導をせずに進むことができた。自作プリントにおいて、色、点、矢印、番号で正しい書き方を示したことがF君の理解を深めたと考えられる。フェルトペンの持ち方は、一人では難しいため毎回、教員が持たせ直した。F君は教員が持たせたまま自分では持ち直さずに書いていたため、教員の持たせ方がなぞり書きに大きく影響したと考えられる。左手での用紙の押さえ方では、用紙が動いたりねじれたりしているときに、自分から左手を使い用紙を押さえ直すことが見られ始めた。なぞり線の先方向を見る目の使い方では、見えるようにのぞきこんで右手を動かすこともでき始めた。右手の微細コントロール力では、曲線を書くときのコントロールが困難なことが多く、また、上向きの曲線の方がより困難であった。数字8や10は達成まで多くのセッションが必要だったのは、目でなぞり線を見ており左手も上手く使えているのに上手くペンをコントロールできなかったためと考えられる。
本実践のなぞり書き学習で、F君は初めて、ペンの持ち方、数字の正しい書き方を学んだ。右手の微細コントロール力もアップしてきた。今後、F君が一人でしっかりとペンを持てるよう指導を進めることが必要である。そして、本実践で獲得できたなぞり書きのスキルは、自立学習の中で引き続き行いながら高めていきたい。また、短期目標である視写で数字を正しく書く学習へ進め、遊びの中で大好きな数字やロゴを書いて楽しんだり、お手伝いで活用したりできるよう、般化を進めていきたい。


記入日時 2006/01/29/17:10:55  No.98
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