201014



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事例担当者のイニシャル[HELP]NS
事例研究のタイトル[HELP]小学部中学年の自閉症児が排尿時にズボンの前部分のみを下ろして排尿できるようにするための支援
事例の概要[HELP] Sさんは今年度前期まで,排尿時,ズボンを足首のあたりまで下げていたため,お尻が丸見えの状態で排尿していた。家庭でも同じ状態で排尿しており,保護者からもズボンの前部分のみを下ろして排尿できるようにしたいという要望があった。
 今年度の年間目標として,「排尿時,ズボンの前部分のみを下ろして排尿することができる。」という目標をたてたが,排尿時に教員が後方に立ってズボンを持つよう支援しようとすると大変嫌がり,怒って靴や靴下も全て脱いでしまうという状況がみられたため,トイレが嫌な場所になってしまってはいけないと思い,前期は指導を中断していた。
 後期に入り指導を再開したところ,Sさんが安心できる男子トイレの洋式トイレであれば,教員が後方からの身体的ガイダンスを行うと,膝のあたりまでズボンを上げた状態で排尿できるようになった。しかし,それ以降の指導があまり進まない状況が考えられたため,標的行動や指導の手続きなどを見直したいと思い,事例として取り上げることにした。

対象児のプロフィール[HELP]小学部4年生 男子Sさん
自閉症・知的障害
PEP−R 発達年齢2歳7ヶ月(平成22年5月実施)
指導者の役割と人数[HELP]担任1名(NS)
長期目標[HELP]学校内のトイレにおいて、毎回の排尿時に、教員が側にいなくても、自分でズボンの前部分のみを下ろして排尿することができる。
短期目標[HELP]小学部の男子トイレ(男子用便器)において、給食後の排尿時に、教員が側にいなくても、自分でズボンの前部分のみを下ろして排尿することができる。
標的行動(増やしたい行動)[HELP]小学部の男子トイレ(洋式)において、給食後の排尿時に、教員が1m程度離れた場所にいれば、自分でズボンの前部分のみを下ろして排尿することができる。
標的行動(減らしたい行動)[HELP]排尿時にズボンとパンツを足首のあたりまで下ろして排尿する。
標的行動を取り上げる意義[HELP]来年小学部高学年となるSさんに対して、「ズボンを前部分のみ下ろして排尿する」行動を標的行動として取り上げ支援することは、トイレのマナーを獲得するという意味で意義があると思われる。また、保護者の要望も高い行動である。Sさんにとって、苦手である行動をスモールステップで着実に獲得できるようにすることで、家庭や社会での般化もめざしたい。
事例に関する情報[HELP]後期に入ってしばらくしてから、ズボンを足首のあたりまで下げている状態から少しずつ上に上げた状態に近づけるため、排尿時に本児が下げたズボンを、教員が後方から膝のあたりまで上げた状態にして排尿するということを目標に指導をしていた。しかし、事例の検討会で、「本児がいったん下ろしたズボンを教員が膝まであげて排尿できても今後つながらないのでは」という指摘を受けた。そこで、本児がズボンを下ろす前に後方から身体的ガイダンスでズボンの前部分のみを下ろすことができるように支援することにした。また、支援を行う中で、男子用便器で排尿していたのが、洋式用便器で排尿するようになってしまったが、今回はそのまま洋式用便器での排尿ということで支援することにした。男子用便器での排尿は、今後、般化場面として支援することにする。
問題の推定原因[HELP](1)ズボンを足首のあたりまでおろしての排尿が本児にとってパターン的になっており、その状態での排尿が落ち着く。
(2)自分にとっての排尿時のパターン的なことを崩されることが嫌。
(3)教員が求めている行動(どういう行動をとったらよいのか)が分からない。
(4)本児にとって、ズボンの前部分のみ下ろして排尿するという行動をとったところで得することがない。
想定される解決策[HELP](1)後方から身体的ガイダンスを行い、ズボンの前部分のみ下ろして排尿するという行動を獲得できるように賞賛しながら支援する。
(2)好子を用意することにより、パターン的な行動を崩し、新たな行動を獲得することが本児にとって楽しいことになるように支援する。
(3)どういう行動をとるべきなのかを、視覚的に絵カードで示したり、身体的ガイダンスで支援したりする。
(4)ズボンの前部分のみ下ろして排尿するという行動ができたら、ことばや身振りで賞賛するとともに、本児の好きなキャラクター(花かっぱ)のシールを手渡し、台紙に貼るようにする。
選択した原因と解決策[HELP]選択した原因(1)〜(4)
解決策(1)〜(4)
般化を狙う場面[HELP]毎回の排尿時
学校内の男子トイレ(男子用便器)
家庭内のトイレ
指導場面[HELP]給食後の排尿時
小学部の男子トイレ(洋式)
指導手続き[HELP]【ベースライン】
排尿時、ズボンの前部分のみ下ろすのに全介助であったか、部分介助でできたか、記録する。

【指導手続き】
(1)給食後の,Sさんがトイレに行こうとするときに,「ズボンの前部分のみを下ろして排尿している」絵カードを提示し,教員がモデリング(ズボンの前部分を持つ)しながら,「これはまるです。」と伝える。
(2)Sさんがズボンに手をかけようとしたときに,ズボンの前部分を持って下ろすように後方から身体的ガイダンスを行う。
(3)前部分を下ろしたまま排尿できたら,絵カードを見せながら,「まるです。」とことばと身振りで大いに賞賛する。
(4)手洗いの後,Sさんの好きなキャラクターシール(花かっぱ)を数枚提示し,「どれがいい?」と聞く。Sさんが一枚選んだ後,「トイレよくできました」の台紙にシールを貼るように指さしなどで促し,「よくできました。」とほめる。   
 ※プロンプトは,次の順序で減らしていく。
・排尿する間ずっと身体的ガイダンスあり              
・排尿するまで身体的ガイダンスを行い,途中からガイダンスなし   
・ズボンの前部分に手をかけるまでの身体的ガイダンスあり      
・手を前に出すまでの身体的ガイダンスあり             
・ズボンを持つところへの指さしあり                
・プロンプトなし(このときには,(1)のモデリングもしない。)
利用可能な好子[HELP]・本児の好きなキャラクターの絵
・シール
・教員の賞賛
教材教具など[HELP]・ズボンの前部分のみを下ろして排尿している絵カード
・本児の好きなキャラクター(花かっぱ)のシール(数種類)
・シールを貼る台紙
記録の取り方[HELP]【ベースライン】
 排尿時,ズボンの前部分のみ下ろすのに全介助が必要であったか,部分介助でできたか,記録する。
【指導場面】
 ズボンの前部分のみを下ろして排尿するとき,どの程度プロンプトが必要であったが,次のように点数化して記録する。
・一人でできた→5点
・ズボンを持つところへの指さしあり→4点
・手を前に出すまでの身体的ガイダンスあり→3点
・ズボンの前部分に手をかけるまでの身体的ガイダンスあり→2点
・排尿するまで身体的ガイダンスを行い,途中からガイダンスなし→1点
・排尿する間ずっと身体的ガイダンスあり→0点
指導期間と達成基準[HELP]【指導期間】平成22年10月29日〜平成23年1月28日
(ベースラインは平成22年10月26日〜28日)

【達成基準】プロンプトなしで、ズボンの前部分のみを下ろして排尿することができた日が5日間続いたら達成とする。
結果[HELP] 指導を開始してから6日間は,排尿中ずっと後方からの身体的ガイダンスが必要な状態であったが,Sさんは嫌がらず,ズボンの前部分のみを下ろした状態で排尿することができた。排尿後のシールを貼るときには,数種類の中から自分で好きなシールを選び,嬉しそうな表情で台紙に貼っていた。11月9日からは,排尿するまで身体的ガイダンスを行い,途中から身体的ガイダンスをなくしても排尿することができるようになった。11月26日からは,ズボンの前部分に手をかけるまでの身体的ガイダンスのみでできるようになり,12月9日からは,手を前に出すまでの身体的ガイダンスのみでできるようになり,少しずつプロンプトが減っていった。
 12月頃から,花かっぱシールを選ぶときに少し飽きているような表情がみられたため,1月からシールの種類を新しいものにした。また,シールを貼る台紙も大きいものに変更し,シールをたくさん集めるのが好きなSさんにとって,より好子となるように工夫した。
 1月12日から,ズボンの前部分への指さしのみで,自分でズボンの前部分を下ろすことができるようになった。大きな台紙にシールを貼ると,しばらく嬉しそうに台紙を眺める姿もみられた。1月19日からプロンプトなしでもできるようになり,1月28日に目標を達成することができた。
考察[HELP] 3ヶ月間という長期にわたる指導ではあったが,指導前,排尿時に教員からの関わりを大変嫌がっていたSさんにとって,スモールステップによって着実に望ましい行動を積み重ねていけたことがよかったと思う。また,Sさんにとって好きなキャラクターのシールを貼ることが好子となり,苦手な行動を獲得していこうとする意欲が高まったことや,Sさんの状況に応じて好子を見直したことなどが,目標達成に向けて有効だったのではないかと思われる。
 指導中に身体的ガイダンスが必要な期間が長く続いたが,記録をとることで日々少しずつプロンプトが減っていくことを確認することができ,地道な指導を継続することができたように思う。記録をとることの大切さを改めて実感した。
 この指導の後,指導した教員以外とも同じようにできたり,給食後以外の排尿時でもできたりと,般化がみられた。また,洋式トイレが使用中のときには,男子用小便器でもできた。家庭においても,保護者がトイレについていったときはできるようになったということで,般化場面が増えてきている。今後は,Sさんの様子をみながら,毎回の排尿時にどこのトイレでも,また大人が近くにいない状況でもできるように,定着を図り,般化場面をさらに増やしていきたいと考えている。

指導前
A:先行条件 B:行動 C:結果
排尿時
小学部の洋式トイレ
絵カードの提示なし
ズボンを膝まで下ろす
+身体的ガイダンスあり
排尿できる(↑)
教員のことばによる賞賛あり(↑)
後方に教員がいることが嫌(↓)
求められている行動がよくわからない(↓)
今までと違うズボンの下げ方に違和感あり(↓)
ズボンを全部おろせない(↓)
ズボンを途中で止められる(↓)

指導後
A:先行条件 B:行動 C:結果
給食後の排尿時
小学部の洋式トイレ
教員が1メートル程度離れたところにいる
絵カードの提示あり
ズボンの前部分のみを下ろす 排尿できる(↑)
教員のことばによる賞賛あり(↑)
絵カードの提示によって求められている行動がわかる          (↑)
好きなキャラクターのシールあり(↑)
今までと違うズボンの下げ方に違和感あり(↓)
ズボンを全部おろせない(↓)

FILE 174_202_4.ppt

データとグラフ:第一系列のタイトル: 
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4  
データとグラフ:第二系列のタイトル: 
Baseline: ベースライン   Intervention1: 指導手続き1   Intervention2: 指導手続き2   Intervention3: 指導手続き3   Intervention4: 指導手続き4  
記入日時 2011/01/10/22:08:26

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