2004-08



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遊びから次の学習の始まりまでの切り替えを指導する
概 要
遊び終了のタイマー音を聞いて、自発的に遊びを終えて片付け、スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』を活用しながら、次の授業場所へ行って学習準備を行う。そして、授業が始まるまで自分が選択したことをしながら待ち、始業の合図を聞いて片付けて着席することができるよう、トークンエコノミーシステムを用いて指導する。

対象児のプロフィール
Dくん.小2男児.高機能自閉症.

諸検査結果
WISC-\x{2162} VIQ68、PIQ104(平成16年7月)
PEP−R PEP-R 4歳7ヶ月(平成14年3月)

障害の特性
本児は周囲の刺激に対して衝動的な行動をとる傾向がある。現在は全日スケジュールを提示しているが、個別の言語プロンプトのみで日課に沿って行動することは困難であり、逸脱した行動をおこし、それを他者が制止できないことがある。そのため、期待する行動をソーシャルストーリーやVTRや手順カードなどで示し、本児の行動コントロールの手だてとなるよう支援している。今後、社会的状況の理解を促し、集団学習場面や行事などの社会的な集まりに適応できるように支援していくことが必要である。

指導者
TT

長期目標
遊び終了のタイマー音で、自発的に遊びの片付けを行い、次の授業の準備をして決められた場所で待ち、始業の合図で着席することができる。

短期目標
遊び終了のタイマー音により、1時までに遊び道具を返すことができ、スケジュールシートを活用しながら次の授業場所への移動と学習準備を行い、本読みをして待ち、1時10分に着席することができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
 現在、朝の会や学部朝会、運動、合同学習等の集団学習において、始まりの時刻に間に合うように時間を考えて自分の準備をすることは困難であるため、教師の方で時間を考え、遊びの終了をタイマーと言葉で知らせている。遊びの終了は、自発的にできることは少なく教師の支援が必要である。今後は教師の支援がなくても自ら遊びを終了し次の学習へ切り替える自己コントロール力を身につけてほしい。また、次の授業までの活動を自分で計画的に遂行することは困難であるが、スケジュールシートの活用を学習すれば、準備、移動、座って待つことが自立的になると考えられる。待つことに関しては、支援がない場面で待つことは難しく不適切な行動をおこし、授業への切り替えがスムーズに行かないことが多いため、自分が選択したことをしながら座って待つことができるよう学習することが必要である。
 標的行動の指導により、遊びを自発的に終了し、スケジュールシートを活用して、次の学習準備を行い適切に待つことが学習できることにより、他の場面での遊びから次の学習の始まりまでの切り替えにも般化できるのではないかと考えられる。将来においても、行事、映画や劇などのイベント、地域の社会的な集まりへの参加、交通機関の利用等の機会を増やしつつ楽しむことができるよう、決められた時刻まで適切な行動をして待つスキルを身につけてほしい。

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
 本児は、昼休みに1時まで教師からゲームを借りて遊ぶことを楽しみにしている。しかし、1時のタイマーの合図で自発的に遊びを終了することができず、教師から遊び道具の返却を指示されることが多い。遊び道具の返却が終わった後、一人で筆箱を持って移動するが、途中で寄り道をしたりかくれんぼ遊びを始めることもあった。授業中、トイレに行ったりお茶を飲み始めたりするなど休み時間と授業時間の区別が理解できていない。授業準備のスケジュールは、以前は筆箱のみを持って移動していたが、本研究ではカバンなど下校準備をして移動するスケジュールに変更した。
 他の場面でも、始まりの時刻にあわせて行動することは苦手で、後何分かを視覚的に示したり、スケジュールで伝えたりしても自分の支度のスピードアップができず、時刻に遅れて集団学習に参加できないことが見られる。また、時間に余裕があって待つときでも、することが示されていないと不適切な遊びを始めてしまい、制止できないことがある。一方、式典やムーブメント学習時には、映像のクイズがあり適切に待つことができている。

般化場面
(1)教室での遊び終了から体育館での低学年集団学習(劇の練習や運動)の始まりまでの場面
(2)教室での遊び終了から体育館や運動場での学校祭や運動会の始まりまでの場面

指導場面
昼休みの遊び終了から相談センターでの授業開始までの場面

指導手続
(指導1)[授業開始1分前の予告と片付けの言語教示を行う]
・トークンエコノミーシステムを活用する。タイマーの音で遊び道具を片付け、1時までに返却できるとトークン1個が貰え5個貯まると玩具と交換できることとする。
・遊びの終了手順は絵と文で示して遊び道具片付けボックスに添付し、視覚的プロンプト(ファイル2)として使用できるようにしておく。
・スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』(ファイル1)を用いて12項目を一つ一つチェックしながら活動するように指導する。スケジュールシートは遊び道具片付けボックスのふたに取り付けておく。
・授業開始の時(時計のアラーム13:10)、12項目ができているとトークン1個が貰え5個貯まると玩具と交換できることとする。』
(指導2)[授業開始1分前の予告なし]
・スケジュールシートの項目11のみ「じゅぎょう始まりのアラーム(13:10)がなったら、本をかたづける。」に変更し、他は指導1と同様にする。

教材教具など
・トークンエコノミーシステム
・好子(ゲームソフト、本)
・遊び道具返却の手順シート
・スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』…指導場面
・スケジュールシート終日用(ファイルタイプ)…般化場面
・タイマー
・待つ時間に読む本等
・片付けケース
・ソーシャルストーリー

達成基準
点数評価(10点満点)で、10点が5日間続いたら、達成とする。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
○指導場面…指導内容
1、1時までに遊び道具を返す。
2、スケジュールシートをチェックする。
3、持っていくものを用意し、次の学習室へ移動する。
4、筆箱を出し、本を読む。
5、片付けて、着席して待つ。
6、妨害行動
の1〜5項目ごとに、2点配点で、10点満点とする。各項目とも『プロンプトなく時間内にできた』…2点、『プロンプトやガイダンスによりできた、プロンプトなくできたが、タイムオーバーした』…1点、『しない、できない』…0点で計算する。
○般化場面 …休み時間終了から、集団学習(学校祭の劇の練習)への移行場面で、同じように記録する。

グラフ下の文字列
第一系列のタイトル: 自発的な片付け,スケジュール作成,移動,学習準備,着席の得点数,
Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 Intervention2: 指導方法2 Intervention3: 般化 Intervention4:
第二系列のタイトル:
Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 Intervention2: 指導方法2

指導期間
9月13日〜12月1日

結果
本指導で、指導1と2の達成基準を通過した。Dくんはトークンエコノミーシステムに支えられて、スケジュール12項目を一つ一つチェックしながらすべきことを選んで行い、次の学習室への移動と学習準備をして始業まで本読みをしながら待つことができるようになった。
 般化場面では、体育館での劇の練習や運動の集団学習など、指導場面と同様にケースに本を入れて体育館へ持っていき、本読みをしながら待ち、始業の合図で片付けることができた。学校祭においてもスムーズに遊びを終了し、次の行動へ移行することができた。

考察
Dくんはスケジュールシート『べんきょうのじゅんび』の活用の仕方を4セッション目で理解し、終了した項目を終わりの欄に整理していた。誤反応のうち多かったのは項目11であり、教師の言語教示「あと1分で勉強が始まりますよ。本を片付けて椅子に座って待ってください。」に対して、本読みに夢中で片付けが遅れたりできなかったりしていた。次は項目12で、授業開始の1分前の予告で片付けると、何もすることがなく椅子に座って待つ時間ができてしまい、その結果、衝動的な行動をして、授業開始の着席ができないことになった。この2つの誤反応は「片付けをして1時 10分に椅子に座っているとシールが貰える。」ということをスケジュールシートで正反応を説明しながらセッションを繰り返すことで改善することができた。Dくんがスケジュールシート『べんきょうのじゅんび』を活用できるようになったのは、行うことと終わったことを明確にして、簡単にチェックできるようにしたこと、スケジュールの内容は「1時までに返す」「1時10分イスに座っている」など具体的な表現でDくんに分かりやすくしたことが有効であったと考える。
 トークンエコノミーシステムに関しては、シールに興味を示して効果的であったが、シールが貰えないときには妨害行動が出現した。スケジュールの12項目を順番に実施していく中で1つの項目でもプロンプトが必要であるとシールが貰えないシステムを設定していたため、Dくんは納得できなかったと考えられる。また、ゲームをもっとしたいときやゲームソフトの調子が悪く満足できなかったときにも妨害行動(タイマーを投げて壊す)があった。この場合は時間内にゲームソフトを返すことはできているので記録としては減点されることはなくシールを貰えることになった。妨害行動の出現を減らすという点ではトークンエコノミーシステムの再考が必要であった。

遊び終了のタイマー音で1時までに遊び道具を返却する
A:先行条件 B:行動 C:結果
a)遊び終了のタイマーが鳴る。 a1《正反応》ゲームの電源を切って片付け、1時の合図(アラーム)までに先生に返す。
a2《誤反応》ゲームを終えるが、時間がかかる(1時に間に合わない)。
a3《誤反応》ゲームを終えるが、片付けて返さず、別の事を始める。
a4《無反応→1分間》タイマーが鳴ってから1分間ずっとゲームで遊んでいる。
a1《正反応》「1時までに返せたね。えらいね。」と言語賞賛し、トークンを手渡す。
a2《誤反応》自分で取り組んでいるのを最後まで見て「返せたのはえらいね。今度はスピードアップして1時までに返してね。」とできているところを認めるが、トークンは渡さない。
a3誤反応》視覚的プロンプト(文字による返却の手順)、言語プロント(「ゲームが終わったら、どうするのかな。」、「○○先生に返してください。」)を順に行い即時修正する。
a4《無反応→1分間》教師がゲームの電源を切ってタイムアウトする。返却できるように、視覚的プロンプトや身体的ガイダンスにより即時修正する。

スケジュールシートをチェックする
A:先行条件 B:行動 C:結果
b)「ゲームの後にすることは何かな?考えましょう。」と言語教示しながら、スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』を手渡す。 b1《正反応》スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』を教師と共に作成する。
b2《誤反応》文を読まずにチェックする。落書きをする。
b3《無反応》チェックをせず、すぐに教室へ帰ろうとする。
b1《正反応》「スケジュールできたね。一番○○、二番△△、三番□□、……」と言って再確認する。
b2《誤反応》教師がチェック項目を読み、言語プロンプトにより即時修正する。
b3《無反応》再試行する。

準備をして次の学習室へ移動し、筆箱を出して本を読んで待つ
A:先行条件 B:行動 C:結果
c)「このスケジュールの順番にすることをして、相談センターで待っていてください。」と教示する。 c1《正反応》自分で作成したスケジュールに従って行動する。(自分の体調に合わせて、教室でトイレに行ったりお茶を飲んだりした後、カバンを持ち、靴を履き替え、相談センターへ行って、筆箱を用意して、本を読む。
c2《誤反応》準備物を忘れる、スケジュールの順番にしない。
c3《無反応》活動が10秒間止まっている。
 

本を片づけて1時10分に着席する
A:先行条件 B:行動 C:結果
d)相談センターで授業開始(1時10分)の1分前に、教師が「あと1分で勉強が始まりますよ。本を片付けてイスに座って待ってください。」と言語教示を行う。 d1《正反応》本を片付け、1時10分の合図(アラーム)まで椅子に座って待つ。
d2《誤反応》本を片付けるが、相談センターでお茶を飲んだり、立って遊んだり、トイレに行ったりしている。本を片付けるが、時間がかかり、間に合わない。片付けず、本を出したままにする。
d3《無反応》1分後も本を読んでいる。
d1《正反応》「約束を守って、椅子に座って待っていたね。片付けもできました。」と言語賞賛してトークンを手渡す。
d2《誤反応》プロンプトは、言語プロント(「スケジュ−ルは何?」「片付けるのはどこかな?」)やポインティングを行い即時修正する。
d3《無反応》言語プロント(「1分過ぎました。」)を行い即時修正する。修正できない場合は「先生が本をもらいます。」と言ってタイムアウトする。


スケジュールシート『べんきょうのじゅんび』とトークンシート

遊び道具返却の手順とトークンシート
記入日時 2006/02/23/23:59:21  No.191
記入者 管理者  E-Mail

遊びから次の学習の始まりまでの切り替えを指導する

記入日時 2006/02/27/14:13:26  No.251
記入者 管理者  E-Mail

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