概 要 |
・単語による要求がいくつかある自閉症生徒を対象とする。 ・対象生徒は、物を窓から投げ捨てるという問題行動がみられる。 ・することがなくなったときに物を投げ捨てるという問題行動の代替行動として、次にしたい活動を要求できるようにする。
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対象児のプロフィール |
・プロフィール:TK。高2男子。自閉症
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諸検査結果 |
太田のStage\x{2160}-3
新版S- M式社会生活能力検査(2003.4.15) 身辺自立2-6,移動2-4,作業3-3,意志交換2-5,集団参加1-10 自己統制1-8 (社会生活年齢2-4)
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長期目標 |
余暇の時間、一人で好きな遊びをして落ち着いて過ごす。
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短期目標 |
遊びの時間、遊びに飽きたときに、写真または言葉で次の遊び道具を要求することができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
標的行動:遊びの時間、遊びに飽きたときに、写真または言葉で次の遊び道具を要求することができる。
これを選んだ理由:対象生徒は、注意の持続時間が短い。遊びの時間には、ビー玉落としなどの好きな遊びをしてしばらくは一人で過ごすが、飽きてくると窓際へ走っていき、持っているビー玉などを外に落とす。また、それまで関わってくれていた教師が他のことに注意をそらすと、同様の行動をとることがある。これらは、注意喚起の行動であるとともに、遊びに飽きたときの興味ある次の活動がないために生起する行動であると思われる。 対象生徒は、「おかわりください」「ありがとう」「いただきます」等の言葉は、場面に合った使い方ができている。また、本年度になって、ビー玉がなくなったときに「ビー玉ください」と要求できるようになっている。そこで、遊びに飽きたときの適切な行動として次の遊びを要求することを教え、遊びの時間に窓から物を投げるという問題行動をなくしていきたい。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
一人で過ごしている遊びの時間によく見られる行動は次の通りである。
好きなビー玉落としの遊びをしているが、長く続けていると動作が止まり、頭をかかえてじっとしていたりビー玉を見つめたりする。→窓のところへ行き、窓から下にビー玉を落とす。
ベースラインの記録の取り方
時間:朝の遊びの時間
方法:遊びの場所にペグさしセットを除いた遊びを5種類用意し、教師は関わらず一人で過ごさせる。
記録:窓から物を投げる行動の回数と、ペグを要求する行動があったかなかったかを記録する。一人で過ごせた時間(分)も記録する。
・遊びの要求がひとりでできた(3点)、指差しや言語プロンプトが必要だった(2点)、身体的ガイダンスが必要だった(1点)、要求しなかった(0点)
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般化場面 |
(1)指導場面以外の時間に、ペグさしセットを写真または言語で要求できる。 (2)指導者以外の教師に、ペグさしセットを写真または言語で要求できる。 (3)ペグさしセット以外の遊び道具を写真または言語で要求できる。
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指導場面 |
朝の着替えから朝の会までの一人で過ごす時間
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指導手続 |
・用意する遊びの内、生徒が好きなペグさしセットを除いておく。 ・ペグさしセットの写真カードを準備しておく。 ・用意していた遊びが一通り終わって生徒が活動しなくなったら、写真カードを持たせ、「ペグください」とモデリングする。 ・写真カードと言葉、または言葉だけで要求できたら、ペグさしセットを生徒に渡す。
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教材教具など |
ペグさしの写真カード ビー玉落としの写真カード 型はめ教具の写真カード
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達成基準 |
プロンプトなしで写真または言語で要求できることが5日間続いたら達成とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
(1)指導場面 窓から物を投げようとする行動の回数と、ペグ遊びを要求する行動があったかなかったかを記録する。一人で過ごせた時間(分)も記録する。
・遊びの要求がひとりでできた(3点)、指差しや言語プロンプトが必要だった(2点)、身体的ガイダンスが必要だった(1点)、要求しなかった(0点)
(2)般化場面 指導場面で達成した後、指導場面と同じ記録を取る。
グラフ下 第一系列のタイトル: 物を投げようとした回数 Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 第二系列のタイトル: ペグを要求 Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1
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結果 |
ベースライン: ・物を投げ捨てる行動は、一人遊びが止まってしばらくしてから生起している。 ・物を投げ捨てようとするとき、安全面への配慮から、教師は止めに入らざるをえない。 ・ビー玉の要求は毎回1回ずつある。ペグの要求はない。 ・ビー玉をもらった後は、しばらくそれで遊べている。 ・窓だけでなく、ロッカーや衝立の反対側へ物を落とす行動もみられる。その場合は教師は無視しているが、対象生徒は、「…おとした…あーあ。」等の言葉を頻繁に繰り返す。
指導場面: ・写真によるペグさしの自発要求が5日間続いた。 ・時々、「ペグ」と「ビー玉」の名前を言い間違えることがあるが、手にするのは欲しい物の写真で、間違えることはない。 ・初めは席に着いたまま写真を持ったり指さしたりして言葉を出すだけだったが、遊びコーナーの出口に教師が立っていると、そこまで歩いてきて写真を渡すことができるようになった。 ・指導に入ってから、物を投げる行動は1回だけ生起したが、その後7日間は一度も生起していない。
般化場面: (1)指導場面以外の時間に、ペグさしセットを写真または言語で要求できる。(No.86) ・給食前の休憩、授業間の休憩において写真を持って要求できた。物を投げようとする行動はなかった。 ・ビー玉とペグの名前を混同し、正確に使えていない。 (2)指導者以外の教師に、ペグさしセットを写真または言語で要求できる。(No.87) ・指導者以外の教師(学級担当、隣の学級担当)に、写真を持って要求できた。物を投げようとする行動はなかった。 ・教育実習の学生には、初回では要求できなかった。2回目からは要求できたが、回数は少なかった。物を投げようとする行動が頻発するようになった。 ・教育実習終了後は、実習期間前と同様に要求し、物投げ行動はなくなった。
(3)ペグさしセット以外の遊び道具を写真または言語で要求できる。(No.89) ・「型はめ教具」の写真を準備した。要求は1回だけで、その写真だけが掲示されていた場合でも要求はしなかった。
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考察 |
ベースライン: ・物を投げることによって、教師の注目が得られている。 ・窓以外の場所に落として注目が得られないときは、発話によって注意を引こうとしていると考えられる。 ・[次の遊びを要求する→教師から注目される→好きな遊びをもらって遊べる]という流れを短い間隔で何回か繰り返すことにより、問題行動を起こさずに遊びの時間を過ごすことができるのではないかと考える。
指導場面: ・写真という先行刺激が要求行動を生起させ、好きな遊びができることや教師に関わってもらえるという好子出現によって強化されていったと考えられる。 ・適切な要求手段の獲得によって、物を投げるという不適切な行動が減少していったと考えられる。
般化場面: ・指導場面以外の時間においても、日常関わっている教師に対しては、適切な要求行動が取れるようになったが、教育実習の学生に対して物を投げようとする行動が頻発するようになった。指導場面で獲得した適切な行動も、相手によっては般化しないことが明らかとなった。 ・家庭においても、物を投げたり本や紙を破ったりする問題行動がみられる。適切な行動を家庭に般化させるためには、日常の家族の関わり方との関係を分析する必要があるだろう。また、物投げ行動が強化されず、適切な行動が強化されるための別の弁別刺激について検討する必要があるかもしれない。 ・「型はめ教具」の要求はほとんどなく、ビー玉とペグさしの要求は、同じ時間帯においても繰り返された。対象生徒が興味を持つことができる遊びの開拓が必要である。 ・遊び道具の名前を正しく記憶するのは難しい。要求は、「写真」+「ください」で教えた方がよいと思われる。
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窓から物を投げる
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
遊びの時間、することがないとき |
窓から物を投げる |
動くことができる(↑) 教師の注目「だめ」(↑) 教師の関わり「こちらに来なさい」(↑) |
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遊び道具を要求する
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
遊びの時間、することがないとき ペグさしの写真カードあり |
指導者に「ペグください」と言う |
ペグさしで遊べる(↑) 教師の関わり(↑) |
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記入日時 2006/02/24/15:18:37
No.231
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