概 要 |
言葉で要求を伝えるものの、口の筋肉がうまく使えず明瞭な言葉が言えない。そのため何度か聞き返さないと理解できないことが多い。担任やかかわりの長い教師は、毎日聞いていると耳が慣れて大体のことは聞き取れるようになったり、状況から見て何がしたいかを判断したりすることができる。しかし、同世代の友達や初めてかかわる人にとっては、本生徒の言葉は理解しずらいため、うまくコミュニケーションが図れない現状がある。また、過去に、何度も聞き返したり、Vocaを使用したりすると、言葉でのコミュニケーションが減ってしまったことがあった。 そこで、現状の言語能力を維持しつつ、初めてかかわる人にも理解してもらい、自分の思いをうまく伝えられるように、言語と単語カードの両方を用いたコミュニケーションに取り組むことにした。
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対象児のプロフィール |
A.M 中学部3年 男子 知的障害 遠視性乱視
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諸検査結果 |
田中ビネー知能検査 IQ34(H14.5/20実施) SM社会生活能力検査 SQ39,SA5−2(H15.3/20実施)
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障害の特性 |
・身辺自立はできており、自分のことはもちろん、進んで友達や教師の手伝いなどをする姿がよく見られる。 ・集団生活も問題ない。 ・身体運動においては、バランスが悪く階段を降りる時は危なっかしいところがある。また、ストレッチをする時も、どの部分に力を入れてよいのかわからず身体意識が確立していない。 ・ひらがなや日常生活で見る簡単な漢字は読める。
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長期目標 |
自分の気持ちを相手に伝えることができる。
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短期目標 |
余暇の過ごし方を言葉と単語カードを提示して伝えることができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
言葉で「CD聞く」+「CD」のカードを出す 言葉で「カセット聞く」+「カセット」のカードを出す 言葉で「ビデオ見る」+「ビデオ」のカードを出す ことができる。
<理由> 現在の本生徒の言語能力と話そうとする意欲を阻害しないためにも、言葉と最小限の支援(単語カード)によって他者とコミュニケーションを図ることができるようにしたい。そこで、一日の中で最も要求の多い余暇の3種類を取り上げた。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
本生徒の言葉が聞き取りにくく、コミュニケーションが図りにくかったため、1学期に「CD」「カセット」「ビデオ」の単語カードを使っていた。しかし、毎日かかわっていると言葉だけでも聞き取れるようになったので、カードの使用がなくなった。2学期になり久しぶりに本生徒の発語を聞くと、やはり聞き取りにくく、要求を理解することが困難である。ベースラインの1週間(9/6∼9/10)は、言葉のみの要求であった。
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指導手続 |
本生徒の教室における余暇の過ごし方は「CDを聞く」「カセットを聞く」「ビデオを見る」の3種類である。 CDを聞きたい時は、言葉で「CD聞く」+「CD」の単語カードを提示するよう指導する。「カセット」「ビデオ」についても同様。 カードを出さずに言葉で伝えてきた時は、「何?」と聞き返し、それに対してカードを出すことができれば
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教材教具など |
「CD」「カセット」「ビデオ」の単語カード
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
○・・・言葉とカードの提示。又は、カードを出さずに言葉で伝えてきた時「何?」と聞き返し、それに対してカードを出すことができる。 △・・・言葉のみ ▲・・・カードのみ ×・・・どちらもなし
グラフの下の文字列 第一系列のタイトル: 言葉と単語カードの提示 Baseline: ベースライン card3: カード3 Intervention2: 指導方法2 Intervention3: 指導方法3 Intervention4: 指導方法4 第二系列のタイトル: Baseline: ベースライン Intervention1: 指導方法1 Intervention2: 指導方法2 Intervention3: 指導方法3 Intervention4: 指導方法4
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指導期間 |
ベースライン9月6日(月)〜9月10日(金) 指導開始 9月13日(月)〜9月30日(木)
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結果 |
カードと言葉を使ってのコミュニケーションが定着し、100%が5日以上続いた。初めて「何?」と聞き返した時も、すぐにカードを使って要求を伝えることができた。
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考察 |
余暇においては、3種類のカードを使って自分のしたいことを伝えることができている。友達がしているパソコンやゲームなどにも興味を示してじっと見ている姿が見受けられるので、今後は、カードの種類を増やし余暇を充実させていく。また、余暇以外の生活場面でこのコミュニケーションを般化させていく。
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