概 要 |
Jさんは,自分のしたいことがあると,状況に合わせて行動を切り替えることが難しく,同じ要求を繰り返す場面が多くみられる。Jさんは給食用ワゴン(以下,ワゴン)を運ぶ活動を毎日楽しみにしており,給食後の日課(歯磨き,エプロン入れ,運動)が終わると,ワゴンを運ぼうと教室を出て行く。運んでもいいと許可が得られなかったり,運んでいるのを制止されると,「いいですか?」と尋ね続けるほか,大声を出す,泣く,床に転ぶなどの行動がみられた。そこでJさんが運搬可能なワゴンを自分で確認した上で行動を開始できれば,ワゴンを運ぶ活動をスムーズに行えるのではないかと考え,この実践を行った。
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対象児のプロフィール |
小学5年生 男児 Jさん 知的障害
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諸検査結果 |
MEPA(2006.2実施) 運動・感覚,言語,社会性 全てステージ4 (ステージ4は19ヶ月〜36ヶ月)
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障害の特性 |
自分のしたいことに対して制止や拒否をされた場合に、気持ちのコントロールがうまくできず、行動を調整しにくい。
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長期目標 |
許可の合図(丸印)に応じて行動することができる。
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短期目標 |
丸印のついた色のワゴンを運ぶことができる。
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
丸印のついた色のワゴンを運ぶことができる。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
Jさんに「ワゴンを運びますか?」と尋ねると,「はい」と返事をし,教室を出て行く。近くの3の1くみに行き,教室の中に向かって「かかかかか(いいですか)?」と尋ねる。「待って」と返事されたが,ワゴンのバーに手をかけ運ぼうとする。制止するが,無理やり運ぼうとする。他のワゴンに行くように促し,5・6くみに運んでもいいか確認して,OKの返事をもらってからワゴンを運んだ。許可の返事をもらえない時は,勝手に運ぼうとする他,大声を出す,泣く,床に寝転ぶなどの行動がみられることが多い。
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般化場面 |
玄関の牛乳パック回収箱で,丸の付いた箱の牛乳パックのみつぶすことができる。
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指導手続 |
指導開始日のみ 1.「ワゴン運びますか」とことばかけし,確認ボードに誘導する。 2.丸印のついた色を選択した場合は,「〜色のワゴンを運びます」と言い,教室のドアを開ける。Jさんが指さしのみで丸印のついたカードケースをとらない場合は,身体的ガイダンスを行う。丸印のついていない色のカードケースを選択した場合は,カードケースをボードに戻して,「丸をとります」とことばかけをする。それでも,丸印のついたカードケースを選択できない場合は,身体的ガイダンスを行う。 3.同じ色のワゴンまで誘導して,「〜色,同じ,運べます」と伝えてから,一緒にワゴン のポケットにカードケースを入れる。 4.ワゴンのバーを持たせて,「お願いします」とことばかけする。 1〜4を3回繰り返す。 【指導2日目から】 1.「ワゴン運びますか」とことばかけする。各教室へ確認に向かった場合は,身体的ガイ ダンスで確認ボードに誘導する。 2.丸印のついた色を選択した場合は,「〜色のワゴンを運びます」と言い,教室のドアを 開ける。Jさんが指さしのみで丸印のついたカードケースをとらない場合は,身体的ガイダンスを行う。丸印のついていない色のカードケースを選択した場合は,カードケースをボードに戻して,「丸をとります」とことばかけをする。それでも,丸印のついた カードケースを選択できない場合は,身体的ガイダンスを行う。 3.カードケースと同じ色のワゴンまで行き,カードケースを入れて,ワゴンを運び始めた 場合は,「お願いします」とことばかけを行い,称賛する。カードケースをワゴンのポケットに入れることができない場合は,ポケットを指さす。それでも入れることができない場合は,身体的ガイダンスを行う。別の色の給食ワゴンにカードケースを入れようとする場合,または運ぼうとする場合は,カードケースを指さし,「〜色のワゴンを運びます」とことばかけする。それでも運ぼうとする場合は,同じ色のワゴンを一緒に探す。 1〜3を1日3回実施する。
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教材教具など |
黒,赤,青,黄色,緑のカードケース,丸印のカード,カードケースを貼るボード(確認ボード),ワゴンの名札(5色)
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達成基準 |
12点満点が3日間連続したら達成とする。
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
ワゴンを運ぶ活動を次の4つの行動に分ける。
行動1:丸印のカードケースをとることができる。 行動2:同じ色のワゴンまでカードケースを持って行く。 行動3:ワゴンのポケットにカードケースを入れる。 行動4:カードケースを入れたワゴンを運ぶ。
行動1〜4それぞれについて、 プロンプトなしでできた:1点 プロンプトありでできた:0点 とする。 1場面全てプロンプトなしでできた場合は4点満点とし、1日3回実施で12点満点になる。
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結果 |
指導開始から3日間は身体的ガイダンスが必要であったが,以降は身体的ガイダンスを行う回数が減り,行動1〔丸印のカードをとる〕,行動3〔カードケースを入れる〕,行動4〔ワゴンを運ぶ〕は自発的にできるようになった。行動2〔同じ色のワゴンまでカードケースを持っていく〕については,とったカードが何色であっても教室から最も近いワゴン(赤色,黒色)に向かう場面が多く,ことばかけや指さし,身体的ガイダンスが必要であった。8日目からどの色のカードを選択しても,教室を出てすぐに廊下を見渡してワゴンの色を確認し迷わず同じ色のワゴンまで向かう姿がみられるようになってきた。 そのため行動2についてもプロンプトが減少し,指導開始から12日目で達成することができた。
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考察 |
Jさんにとっては,同じ色のワゴンのマッチングが大きな課題であり,直接見えにくい場所のワゴンへのマッチングが難しかったが,Jさんにとって,ワゴン運びが大きな楽しみであり,マッチングできたら運んでいいという同じ色のワゴンを探そうとする意欲につながり,目標を達成できたと考えられる。
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ワゴンを運ぶ
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
ワゴンを運びたい時 |
「いいですか?」と尋ねる |
「待って」と言われて運ぶことができない(↑) |
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ワゴンを運ぶ
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
昼休みに確認ボードで丸印のついたカードを見た時 |
丸印のついたカードと同じ色のワゴンをマッチングする |
ワゴンを運ぶことができる(↑) |
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第一系列のタイトル: |
Baseline: ベースライン
Intervention: 指導手続き
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記入日時 2006/11/01/18:37:39
No.307
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