2005-19



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小学部中学年の自閉症児に朝のあいさつができるようにソーシャルストーリーで支援する
概 要
 本児は特定の慣れ親しんだ大人であれば自分の思いを伝えることができる。しかし、多くの場合、教員からの語り掛けや挨拶に対しては、応答することができていなかった。
そこで、自分の周りの人たちの「おはよう。」の挨拶に応えることで「おはようございます。」の挨拶ができるようになれば、自然な形での社会的スキルを身に付けることができると考え、この指導を計画した。

対象児のプロフィール
K・小4男児。自閉症。

諸検査結果
S-M社会生活能力検査(SA)4歳4ヶ月
WISK-?V:I.Q 70

障害の特性
音に対して感覚過敏(耳塞ぎ)
常に精神的に不安定要素を持っているので適度な声かけや賞賛が必要。
慣れ親しんだ大人と話し言葉でのやりとりができる。
書き言葉(日記など)での表現が得意。ユーモアのセンスがある。    

長期目標
「おはようございます」「さようなら」「しつれいします」の挨拶をすることができる。

短期目標
朝、教師に「おはようございます」の挨拶ができる。

指導目標(標的行動とこれを選んだ理由)
登校時に担任からの「おはよう」の声かけに応えて「おはようございます」の挨拶を返すことができる。
(毎朝、トランジッションコーナーに提示してある「おはようございます」カードを読んで朝の挨拶ができているが、さらに、担任の「おはよう」の挨拶に応えて返事ができるようになれば、自然な形での社会的スキルを身に付けることができると考え、目標を設定した。)

指導目標に関する対象児の実態(ベースライン)
 すでにスケジュールボードの文字カードを目で確認してから担任と目を合わせて「おはようございます」の挨拶がでる。
今までに、カードなしで1度だけ担任の「おはよう」に応えて挨拶ができたことがある。
朝の会で名前を呼ばれたら返事をしてその後「おはようございます」を返す事ができている。
「さようなら」は担任の挨拶に応えるかたちでできている。

般化場面
・教材室にプリント取りに行って担任以外の教員に出会った場面で「おはようございます」の挨拶ができる。
・家庭で両親に「おはよう」の言葉で挨拶ができる。

指導場面
朝登校時、教室または廊下または玄関で初めて担任に会った時。

指導手続
・下校時前に個人の遊びのコーナーで「おはよう・・・」のソーシャルストーリーを担任と一緒に読む。(担任が読んで聞かせる)
・「K君」の呼びかけで目を合わせ「おはよう」と挨拶し応答を待つ。言葉がでないようなら「おは・・・」と誘導してみる。それでもでないようだったら、担任側から「おはようございます」と模範を示す。それでも言葉がでないようであればカードを示す。

教材教具など
・ソーシャルストーリー(あさ「おはよう」とあいさつしてくれたときは「おはよう」とへんじをします。)


あさ、「おはよう」とあいさつしてくれたときは「おはよう」とへんじをします。

あさ、知っている人にあったときは、ふつう、えがおで「おはよう」と
いいます。

きっとあいても「おはよう」とへんじをしてくれるでしょう。

たいていの人は、えがおであいさつすると、えがおであいさつをしてくれます。
えがおは人をしあわせにすることができます。

先生も、あさは、たいてい、えがおで「おはよう」とあいさつしたいと思って
います。

だから、あさ、先生がえがおで「おはよう」とあいさつしてくれたとき、ぼく
もえがおで「おはようございます」とへんじをしたら、ぼくも、先生も、きっ
と、しあわせなきぶんになれます。

カードがなくてもだいじょうぶだよ。きっと、ね。

・ソーシャルストーリー(あさ、知っている人にあったときは、ふつう、えがおで「おはよう」と
いいます。)

あさ、知っている人にあったときは、ふつう、えがおで「おはよう」と
いいます。

きっとあいても「おはよう」とへんじをしてくれるでしょう。

たいていの人は、えがおであいさつすると、えがおであいさつをしてくれます。
えがおは人をしあわせにすることができます。

先生も、あさは、たいてい、えがおで「おはよう」とあいさつしたいと思って
います。

だから、あさ、ぼくがせんせいに、えがおで「おはようございます」とあいさつしたら.
せんせいはきっと、しあわせなきぶんになって、えがおで「おはよう」とへんじをして
くれるでしょう。

ぼくは、○○せんせいや○○せんせいにも「おはようございます」とあいさつしてみようと思います。

もちろんクラスのみんなにも「おはよう」って言ってみようと思います。

みんなが、しあわせな気分になれるといいね。

・「おはようございます」カード

達成基準
3日間続けて担任の挨拶に応えて「おはようございます」の挨拶が出来たら達成とし、次のstepへ。

記録の取り方(般化場面と指導場面)
指導場面:
【step1】トランジッションコーナーで担任の「K君、おはよう」に応えて「おはようございます」と挨拶を返すことができる。
【step2】教室に入ってきたときまたは廊下または玄関で担任の「おはよう」に応えて「おはようございます」の挨拶を返すことができる。
【step1】においてプロンプトを点数化する。
・プロンプトあり(カード)0点
・プロンプトあり(模範を示す「おはようございます」)1点
・プロンプトあり(声かけ・誘導「お・・・」または「おは・・・」)2点
・プロンプトなし3点
【step2】においてプロンプトを点数化する。
・プロンプトあり(模範を示す「おはようございます」)0点
・プロンプトあり(声かけ・誘導「お・・・」または「おは・・・」)1点
・プロンプトなし2点
般化場面:(1)朝、プリント取りのお手伝いに行ったときに在室の教師に「おはようございます」が言える。
・プロンプトあり(担任Aの付添とカード)1点
・プロンプトあり(担任Aの付添)2点
・プロンプトあり(カードのみ)3点

指導期間
2005年9月7日〜2005年12月10日

結果
指導の結果、12月現在、担任に対してはどんな場所でも、カードなしで目を合わせて挨拶を返すことができるようになった。標的行動を身につけることができたと考えられる。また、家庭でも「おはよう」と親子で言葉を交わすことができるようになった。
学校で般化場面として選んだ教材室は、時に特定の教員が在室していないことがある。普段慣れ親しんでいる教員に担任によるカードの提示なしで挨拶ができても、ほとんど関わりのない教員には挨拶ができなかった。こうした場面が続いたため、本児にとっては期待を裏切る結果となり、担任によるカードの提示を必要としない挨拶には至らなかった。

考察
本児は、本年度より小学校障害児学級からの転入児童である。非常に過敏性があり、4月当初は担任を離れた活動はほとんどできていなかった。そこで、学校でのルールや、行事情報、教員や友だちとの対応の仕方などを伝える道具としてソーシャルストーリーを使うことにした。
5月より1日1回ソーシャルストーリーを一緒に読むようになり、当初不可能と予想された行事参加や自立課題の達成、本児単独でのお手伝いなどの落ち着いた行動が徐々にとれるようになってきている。この事例研究はソーシャルストーリーを使った支援課程の1事例であるが、この結果から、軽度知的障害で常に精神的に不安定要素を持っている本児にとっては、社会情報を伝える手段としてソーシャルストーリーの支援が効果的であったと考えられる。
今回の指導後、般化場面1にトークンエコノミーシステムを組み合わせたところ、カードを見ながら教材室でのあいさつがコンスタントにできるようになった。2月以降トークンエコノミーシステムを外したが、その後も変わりなく自信を持って教材室ではどの教員に対しても「おはようございます」の挨拶ができるようになった。このことから、本児にとっては般化場面1に対してトークンエコノミーシステムとの組み合わせが有効であったといえる。
標的行動に対しては2月になって担任と挨拶できることを誉めるストーリーを読ませたところ、日を増すごとに挨拶時に自然な笑顔が見られるようになっている。最近ではストーリーを読むのもすべて本児自身でできるようになった。
この場合、挨拶できたという達成感と教員の「おはよう」の返事そのものが好子であると考えられる。
今後の課題としては、
(1)朝の担任への挨拶を児童の方から「おはようございます」が言えるようになること、教材室ではカードなしでどの教員に対しても「おはようございます」が言えるようになることを目標としストーリーを練り直して取り組む。
(2)今回のストーリーは、キャロル・グレイのソーシャルストーリー判定基準からは、正しくないとも評価されるものである。
さらに研修を積み、必要に応じてタイムリーに、正しいソーシャルストーリーを書くことで、子どもに自信をもたせながらわかりやすく丁寧に社会情報を伝える事ができるようになることが必要である。そのためには複数の視点で推敲できる学部内でのチーム作りに取り組むことも合わせて必要であると思われる。

     






第一系列のタイトル: 指導場面
Baseline: ベースライン   Intervention1: 【step1】   Intervention2: 【step2】  
第二系列のタイトル: 般化場面
Baseline: ベースライン   Intervention1: 般化場面 1  
記入日時 2005/09/21/22:19:03  No.24
記入者 M.M  E-Mail

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