概 要 |
対象生徒は,不安定になることが多く,その原因となっている『トイレに行く』という指導を2年前から継続して行っている。指導を継続することにより,現在は『トイレに行く』事に関して不安定になることはなくなった。しかし,成長するにつれ物へのこだわり,わがままを通すことが強くなり,そのことによって不安定になって怒ることが多くなってきた。対象生徒も来年は3年生となり,近隣の施設に入所を希望している。今の状態だと本人にとっても,施設の職員さんにも+面が無いと思われるので,自分のしたいことを怒らず伝え,且つ約束を成立させることで,落ち着いて生活できるようになるのではと考え指導を始めた。
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対象児のプロフィール |
高2女子 知的障害,てんかん
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諸検査結果 |
S-M社会生活能力検査(身辺自立:4-4,移動:3-9,作業4-5,意志交換:4-3,集団参加:3-1,自己統制:3-6,社会生活指数:3-1,社会生活年齢:4-0)
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障害の特性 |
1つの物に対するこだわりが強いが,ある一定期間を過ぎると興味がすぐ別の物に移る傾向がある。しかし,しばらくしてから再び興味が戻ってくる場合もある。好きな物に対しては自分の意見を押し通す。
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指導者 |
N,K(以上担任) M,F,S(授業担当者)計5名
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指導目標(標的行動とこれを選んだ理由) |
ボードに貼っている限られたカードの中から,やりたい物を選んで要求を伝えるという約束を守る。 理由: 自分のやりたいものを探して教室をウロウロしたり,授業に行かなかったり,怒ったり,放課後近隣の利用施設から教室へ物色に来たりと,無い課題(用意できていない,もう無くなってしまった課題)をしたいと無理矢理要求を通していたので,何がしたいのかを言うように今年度当初に指導した。その結果,やりたいことを担任に言うようにはなったが,言えばいつでもやりたい課題をくれると思い限りなく要求を出すようになった。しかし,授業に行かない,怒るという部分は変化がなかった。対象生徒は終わった物,終わっていない物の状況が目に見えていないから,やってしまった物も「まだしていない」と言って怒り始めるのではないかと思い,カードを用いて限りがあること,終了した物は目の前から,また今すべき課題の中から無くなると言うことを示して約束をすると無理矢理な要求も減るのではないかと考え目標を設定した。
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指導目標に関する対象児の実態(ベースライン) |
ベースライン(年度当初の指導方法) 教師が提示した課題の中からしたい物を選ぶ,または自分でしたいことを口頭で言う。 <実態> ・対象生徒は自分の好きなことをしたいとの要求ばかりで,他の活動をしない。 ・教師が対象生徒からの繰り返し要求を拒否すると怒り出す(物を投げる)などの行動が見られる。 ・教師が対象生徒からの要求をのむと,限りなくしたいことばかりを言って,授業に参加しなくなる。 「これをしたら行く」と言いながら約束を守らず,次の要求を出してくる。
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般化場面 |
担任以外の教師にも同じように要求を伝えることができる。
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指導場面 |
学校生活の登校から下校までの間 ・登校後 ・授業課題が終わった後の残り時間 ・休憩・余暇活動時間 ・下校前
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指導手続 |
指導1 対象生徒がやりたい活動があるとき,ボードに貼っているカードの中からやりたい物を選択し,カード且つ口頭で要求を担任に伝える <指導上の確認事項> 1. ボードにあるものしかできないことを伝える。 2. 対象生徒は今できることボードから,やりたい活動を選び教師に渡す。 3. ボードにないカード(課題)の要求が対象生徒からあった場合,教師は「ボードにないからできません」と伝える。 4.教師は上記3の後に,ボードから他の物を選ぶように促す
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教材教具など |
指導1 できることボード,カード(常駐5枚)+α(興味関心の移り変わりが激しいため,日替わり),カードと同じ教材
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記録の取り方(般化場面と指導場面) |
指導1 各指導場面での要求(カード及び口頭での要求すべて),その時の教師の対応,対象生徒の様子を記録し,(約束が成立〔※〕した回数÷要求を出した回数)×100(%)で割合を出す。 グラフの縦軸は約束が成立した%で示す。 ※約束の成立 1. 教師が課題を渡し,それを行う 2. 「カードがないからできない」と言われて,対象生徒が納得してそれ以上要求を出さない時 3. 「カードがないからできない」と言われて,別のカードを選んだ時 ※約束の不成立 1. 「カードがないからできない」と言われて,怒り始めた時 2. 「カードがないからできない」と言われて,ウロウロと教室を物色し始めた時 3. 1回してしまいボード上にカードがないのに,それをもう一度したいと言った時
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指導期間 |
ベースライン 2005.10.24〜10.28 指導1 2005.11.14〜
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結果 |
この指導を始め,怒ることが少なくなり,落ち着いて活動できるようになった。最近は,怒っているときに「ないからできんのな」と言うこともあるので,ボードから無くなるとできないと言うことは解っているようである。また,対象生徒の常に興味関心がある課題を見つけることもできた。(色分け,クリップ,ストロー通し)この課題をしておかないと納得がいかないようで毎朝これらの課題を必ずする。課題になれてくるとペースが上がり,午前中でボードにある課題をしてしまうことが多くなり,午後からの要求に対応できなくなってきたので,午前と午後のボードを用意する必要がある。また,ボードにカードが残っているとそれをやってしまうまで下校しない事もしばしばあった。(グラフの極端に落ち込んでいるのは,要求回数が少なかったためである)
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考察 |
記録を取っていくと,要求が出るのは教室を出て活動するときが多い事が解った。教室に行けば(居れば)好きな事ができると解っているようである。その為,体育の授業にあまり行かなくなった(寒いという理由もあるが...)。
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やりたいことの要求 ベースライン(Before)
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
やりたい活動があるとき (教師との約束無し) |
要求を言葉で伝える |
・何度も同じものができる(↑) (授業にいかず何度もしようとする) ・やりたい物がない時がある(↓) ・限りなく要求を出すと担任の先生が困り,「いいかげんにしなさい」と怒られる(↓) ・好きなことをしたくて授業に行かなくなり,担任の先生に怒られる(↓) ・次々に要求を出すと,準備が間に合わなくなるので担任の先生の機嫌が悪くなり,課題ができず自分も怒り出す(↓) |
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やりたいことの要求 第1段階(After)
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A:先行条件 |
B:行動 |
C:結果 |
やりたい活動があるとき (教師との約束あり) |
要求をカードと言葉で伝える |
・やりたい活動が必ずできる(↑) ・いろいろな面で怒られない(↑) ・やりたい物があるかどうか解る(↑) ・要求の回数が減ると,担任の先生の負担が減って,担任の先生が笑顔になる(↑) ・担任の先生が事前に課題の準備ができるので,やりたい物をすぐさせてくれる(↑) |
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常駐カード |
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第一系列のタイトル: 要求が成立した割合 |
baseline: ベースライン(教師との約束なしで,要求を伝える)
good1: 指導1:教師との約束有りで,要求を伝える
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第二系列のタイトル: |
Baseline: ベースライン
Intervention1: 指導手続き1
Intervention2: 指導手続き2
Intervention3: 指導手続き3
Intervention4: 指導手続き4
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記入日時 2006/01/12/21:53:47
No.88
記入者 k
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